……7月13日(水) 16:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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TOXがロケットは駄目だと言って教えてくれるわけじゃないけど、大きなロケットを作ると襲われる。私達が作ったような小さなロケットは襲われない。そこになにかの意志のようなものを感じるということだ。その人間が勝手に読み取ったものについて「教えてくれている」と呼んでいる。
ややこしい話なのでこの辺の説明は一度飲み込んで、高階者の話に戻る。
「ダイソン球を作った人について、私がなにかで見たり聞いたりしたことがある話はそういうのばっかりで、その高階者って人について少なくとも世間一般ではそれほどまともに考えてる人は居ないんだと思う。一人も居ないってことはないんだろうけどね、誰でも知ってるぐらい有名ってわけじゃない。でも、叡一くんが言葉を借りてきたんなら、その言葉を作った人は詳しいのかもね」
「いや、これも君が言っていたフィクションから借りてきた言葉だよ。君……安積さんはどうだい? 興味が湧かないかな?」
「興味ならあるけど、それ以上のことではないかな。でも、私はなんにだって興味はあるよ」
と私が言ったら、ハルカちゃんが「うそだー」と小声でツッコミを入れてくる。
そうですね。確かに五〇〇〇年前の映像作品にはそれほど興味はない。
「佐々也ちゃん、おしゃれに興味なさすぎ」
あっ、そっちもそれほど興味無いですね。はい。
「……まぁそれはいいよ。それで、叡一くんは幹侍郎ちゃんの部屋になにがあると思ってたの?」
「なにというほどまとまった考えがあったわけではないけど、高階者の証拠があると思ってたんだよ。安積さんに強いコンプレキシティを感染しているなにかとかがね。でも、そんなものは無かった」
「まぁ、幹侍郎ちゃんが居るだけだからねぇ……。えっ? コンプレキシティって感染ったりするものなの?」
「さぁどうだろう? 同じような場所にいる人は、たいてい同じぐらいの濃さのことが多いよ。まれに飛び抜けて濃い人とか薄い人が居るけど、大体は賢い人が濃くてそうでない人が薄いね」
「なんか別の要因なんじゃないの? 話してみて分かったと思うけど、私は別に飛び抜けて賢いわけじゃないよ?」
「いやいや、安積さんは結構どうして、かなり賢い人だと思うよ。異種族の僕でも、本当に話しやすいんだ」
「……それはどっちかっていうと、私がいつでも他人の話と食い違いを起こすから、聞いて引っかかるところに心当たりがしやすいってだけだと思う」
私という人間の悲しいところだ。
こういうところがあるせいで、気心の知れた数人を除いた他人との会話をするとすごく気疲れする。
まぁ、世の中のみんなも、私が見ている限り、そんなにばっちり噛み合った会話をしているってわけでもなさそうなんだけど、それで気にならないらしいし、その後の話の流れを聞いてみると、噛み合ってなさそうな話でも結局は通じ合っていたということが傍目にも分かることばかりだ。
だから、世の中の人達は、私にはできないやり方で噛み合った話をするなにかの方法があるんだろうと思う。
つまりこれは私が他人よりたくさん持っているものの話ではなくて、他人は持っているのに私は持っていないものの話だということになる。
……なんか悲しくなってきた。
「そうなのかい? これはまた……。でも、安積さんがそういう人であってくれたから僕たちがこうして話せてるんだと思うと、感謝したいぐらいなんだけどな」
「それはどうもありがとう。せめてもの慰めになるなぁ」
いくらイルカに話しやすいって褒められても、今後も私は人間の間ではこれまでと同じように生きていかなきゃいけないわけだけどね……。
私のことは良い。
つまり、話を聞くと叡一くんはアテを外してしまったわけだ。
叡一くんが探し物の根拠にしているのはコンプレキシティ。幹侍郎ちゃんがTOXに狙われているとしたら、このコンプレキシティが根拠になっている可能性がある。だから、コンプレキシティを解決すれば幹侍郎ちゃんが防衛隊に発見されてしまうという当面の危機を回避することができる。(とはいえ、幹侍郎ちゃんが地下に隠れていなければいけないという大本の問題は解決しないんだけど。)
でも、このコンプレキシティがなぜ発生するのかは、叡一くんもよく判ってない。
「……その高階者っていう『ひと』は、コンプレキシティが濃いところに居るって決まってるの?」
「えっ?」




