……7月13日(水) 16:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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「僕はね、高階者を追っているんだ」
「こうかいしゃ……。ってなに? 航海ってことは……船乗りに関係あること?」
「船乗りには関係ない。地球と僕たちイルカをいまのこの状態にしたハイレベル存在のことだ」
「ハイ……レベル……? ああ、『こうかい』の『かい』は階段の階ってことか」
「そうだね。そう翻訳するみたいだ」
「ハイレベル存在ねぇ。……なるほど」
とは言ったものの、二の句が継げない。
ここで「あれ? そういう感じ?」なんて言っちゃったら台無しだ。
馬鹿にしたニュアンスが出てしまうといけないし、内容に興味がないこともないんだけど、ちょっとねーハイレベル存在とか言われちゃうとねー。しかもそれに名前が付いてるとかねー、ちょっとねー。日常生活には馴染まない感じだよねー。
「その目……。信じていないのかい?」
「信じるも信じないも、いまはじめて聞いたから名前しか知らないんだよ。それってどういうことなの? いやどういう人なの? いや、人じゃないのか……」
「人類ではないと思ってるよ。でも日本語で『ひと』と言った場合に、人類の一員以外でも意思を持つかに見える客体を指す場合もあることも知ってる。こっちの意味なら『ひと』と呼んでも差し支えないかもね」
「人間以外を相手に『ひと』って呼ぶのはかなり稀だと思うけど……」
「そうかい? フィクションなんかだと、明らかに動物だったりロボットだったりする対象を『あの人』みたいな呼び方をするって聞いたよ。高階者もそういう意味でなら『ひと』と呼んでも差し支えないと思う」
知性が在って言葉が喋れるような、フィクションの登場人物ということだろう。たしかにそういうときはカッコ付きの『ひと』と呼ぶことはよくあることだ。
「じゃあ『そのひと』って呼ぶことにするよ」
「高階者って呼ぶのには抵抗があるかい?」
「まぁ、そんなとこ」
なんというか、よく知らない神様の名前を呼ぶと呪われるような気がする、みたいなことだ。呪われることを気に病んでいるというより、未知のものに対する作法を知らないことで、間違った扱いをしてしまうかもしれないことが嫌だ。まぁ、言葉を分解しただけで、それが呪いっていうことの一部なのかもしれないけど、呪いがあることを信じているというより、呪いに擬した悪影響がないことを経験や見聞から確信できない状態が嫌なのだと思う。
歴史上の偉人なんかも同じ感じで簡単に名前を呼ぶのはあまり好きではない。
けどまぁ、要するに迷信深いというのはこういう態度だろうとは思うので、胸を張って説明しづらい。
「それで『そのひと』、えーと高階者だっけ? がどういう『ひと』なのかをもう少し詳しく教えてくれる?」
「どういう『ひと』なのかは僕も知らないよ。地球をこのダイソン球の中に連れてきた『ひと』で、イルカにいまの身体を与えた『ひと』。そしておそらくはいまも地球にTOXを落としているのも同じ『ひと』だろう。この世にはそういう『ひと』が居るはずで、その『ひと』のことを『高階者』って呼んでいるんだ。そして僕はその『ひと』を探している」
「ああ……、そういうことか。……なるほど」
要は好奇心なんだろうか?
知らないことを知りたい、その気持は私もよく分かる。
「人間だって同じような疑問は持つだろう? 高階者という訳語も人間からの借り物だよ」
「聞いたことある言葉だと思ったけど、そういうことだったのか。どこで聞いた言葉なのかまでは思い出せないけど。……それで、人間が同じ疑問を持つかどうか。もちろん疑問を持ってきたよ。でも、真面目な扱いはあんまりされないね」
「どうしてだい?」
「神様に答えてもらっちゃうことが多いんだよ。世の中に伝わってくるのはそういう話ばっかり」




