……6月21日(火) 12:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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「TOXって泳げるのかな……?」
「泳げない。水上を移動することはできるけど水中に入ると浮いて来れない。みぞれも、佐々也のボケをあんまり拾わなくていいからね?」
ぞっちゃんの疑問にユカちゃんが即座に答える。
「私はボケてないよ。知らなかっただけ」
「佐々也もTOXが海に落ちたって話は聞いたことないでしょ?」
「確かに聞いたことはないけど、TOX撃退は海に近い場所が多いから、海に関係あるのかと思ってた」
「海に近い場所の方がTOXが多い? 聞いたことないけど……」
ユカちゃんが怪訝そうな顔をしている。
「日本の都市部は海に近いところが多いから……」
お弁当をゆっくり食べていた窓ちゃんが助け舟を出してくれた。
「ああ! そういうことね! 佐々也もTOXは人が多いところに行くっていうのは知ってるんでしょ?」
「そりゃあ知ってるよ……」
さすがにそれを知らないわけがない。
誰だって知ってる。小さい子供だって知ってる。
「あんた別に馬鹿じゃないのに、常識は無いからなぁ」
「私は常識あるよ! どっちかっていうと、常識が理屈に合わない場合があるんだ」
「出た! さーちゃんのそういう自分で考えるところ、ほんとかっこいい。一度は私も言ってみたい!」
ぞっちゃんが嬉しそうにそんな事を言ってきた。
「常識ってのも普通は理由があってそうなってるもんだから、ちょっと考えただけの浅い理屈より常識の方が正しいことの方が圧倒的に多いんだけどね」
「うん……」
ぐうの音も出ない正論。ぞっちゃんにはからかわれるし、なんだか散々だ。
私だってなにも、常識より私が正しいとまでは言ってないんだよ。順繰りに考えて理屈に合わないからなんでなのか不思議に思うだけなんだ。
なんとなく手が止まってたけど、こうなったらもうお弁当を食べよう。
「……あっ!」
「なにか分かった?」
ぞっちゃんがニコニコしながら聞いてくる。
からかってるだけじゃなくて、ほんとにそう思ってるふしもあるから、この子は憎めない。
「そういうんじゃなくて、夏みかんの皮って手だけじゃ剥けないの、いま気がついた。誰かナイフ持ってない?」
油断した。とうもろこしは茹でないといけないけど、夏みかんも素手では食べられないのか……。食べたことあるのに忘れてた。
「持ってないし、持ってたとしても果汁で汚れるから貸さないわよ」
ユカちゃん……。身も蓋もない女め……。
「ゴジとたまはナイフ持ってない?」
「持ってないなぁ……」
「先生に借りてくるよ」
ゴジは相変わらずそっけないけど、たまはそう言って席を立って職員室に向かった。なんて良いやつ。
「待って、たま。私の夏みかんだし、私が行くよ」
「もう立っちゃったからいいよ。待ってて」
聖人なのか?
良いやつ過ぎて心配になる。
歩いて行ったたまが発していた善のオーラで場が無言になってしまった……。
心の狭いことを言っていたユカちゃんなんかはたぶんバツが悪いだろう。
「……えーと、話の腰を折ってしまって。なんの話ししてたんだっけ?」
「遊ぶ約束がTOXのせいで潰れるかどうかの話」
「あー、そうだった。まぁ、この辺はTOXの心配はないんじゃない? 下の町だって別に都会なわけじゃないし」
「いまのところは、遠すぎてなんとも」
私とユカちゃんがぞっちゃんに答えていると、たまが先生から借りた果物ナイフを持ってきてくれた。
買ってきた夏みかんは赤いネットに三つ入ってたんだけど、二つは自分で食べて、後ひとつはみんなで分けた。




