……7月13日(水) 16:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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窓ちゃんは叡一くんと会って、お礼が必要になるような話をした。
なにかを聞いた、ということだろうか。
「いや、別に悪くないよ。よくある行き違いだから。私もちょっと気になっただけ。それよりも、TOXと戦う前に窓ちゃんと話してた方が気になる。なんでそんなことになったの?」
「昼のうちに真宮さんに呼ばれたんだ。展望台に午後六時頃に来て欲しいって。それで、そこに行ったら真宮さんが来たんだよ」
展望台とはこの家の脇の坂を上がったあそこだろう。
知っている場所だ。風景が思い浮かぶ。
「ああ、なるほど。……じゃあ、叡一くんは窓ちゃんからTOXのいる場所を聞かれた感じ?」
「そうだよ。よく分かったね」
「まあ、それはね、予想してたから。他には窓ちゃんとなにか話した?」
「話といえばそれぐらいだよ。TOXの落下場所の話をして、他の場所に散っていった痕跡は無いと答えたんだ」
「なるほどね。やっぱり、そのつもりで動いてたんだな……」
「なにがだい?」
「窓ちゃんがさ、TOX退治をするつもりだったんだなってこと。そうだ! 窓ちゃんは展望台にバイクで来た?」
「そうだよ。良く知ってるね」
「後もう一つ。いまの話は、防衛隊の人に話した?」
「いや、なにも。聞かれなかったからね」
あー、これ、聞かれたら言うやつだな……。まあでも、この話が防衛隊の人に聞かれたらどうマズいかはよく分からない。そもそも、あのいかにも凶器というマチェーテを持ってただけでTOX退治をやるつもりがあったことはバレバレだっただろう。
「いまの話、防衛隊の人に言ったら、たぶん叡一くんにも事情聴取があると思う」
「事情聴取? 真宮さんはなにか事件に巻き込まれてるのかい?」
「事件に巻き込まれているというか、窓ちゃんが事件を起こした感じ。防衛隊に先んじて一人でTOXをやっつけちゃったのが問題なんだって」
「いいことをしたように聞こえるけど?」
「それが、ダメらしいんだ。なんでも、事前に防衛隊との連絡を絶ったらしくて」
「……ああ。隊員の統制の問題か。それならわからなくもない。組織っていうのは煩いもんだよね」
なんか急にパンクなことを言い出したな……。
まぁでも、これまでの言動からわからないこともない。というか、外交的な性格でだいぶ隠蔽されているけど、素の叡一くんはわりと自負心が強くて高踏的というか、超俗性を気取っているようだ。なんというか抽象的な話に入れ込むし、批判的な事を思っても婉曲に表現したり。実際、人間社会の俗世には所属していないから、中学二年生が賢ぶっているのとは質が違うとは思うけど。
戦争物のアニメなんかの青年革命家とかにこういうタイプの時々人がいる。話の中でエリートでお固いタイプの女性にモテては破滅したりしている。
これまで身近にはいなかったタイプだ。
「いまの話を防衛隊が知ると、窓ちゃんの当日の行動について、たぶん聞かれるんじゃないかと思う。たぶん、だけど」
「わかった。心がけるよ。聞かれたら逆らわないけど、情報は最小限しか伝えないことにする。もしそういうことがあったら、安積さんは僕が何を話したか聞きたいかい?」
「そうしてくれると助かるなぁ。私になにができるわけじゃないだろうけど」
「事情通ってのはそんなもんだ。安積さんがそういうタイプだってのは意外な気がするね」
「私!? 普段は違うんだよ。今だって慣れないことをしなきゃいけなくて大変なんだ」
「ふーん。そうなのかい。安積さんはいつでも色々なことに気がつく人だと思うけど」
「まさか! 私は察しが悪くて日々苦労してるんだよ。情報を集めて回ったりしないの、私はね」
「またまたご謙遜を」
謙遜……。かなぁ?
* * *
「じゃあ、安積さん。こんどは僕の番だ。TOXと戦った場所を見せてもらえるかな?」
「あー、そのことなんだけど、やっぱり今度また、ゴジが居るときにできない? 家主はやっぱりゴジだからさぁ、ははは」
実際には幹侍郎ちゃんの情報のコントロールをする権利があるのはゴジだと感じているから、なんだけど。
いまここで幹侍郎ちゃんのことを叡一くんに話すつもりはない。




