……7月13日(水) 16:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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「どうしたの? あ、そうか、ちゃんと言わなければ伝わらないね。TOXと戦った場所を見せてほしいんだ。お願いします」
「そういうことじゃないよ。まずは、窓ちゃんの話を聞かせてほしい」
「真宮さんの話だね。うん、わかった。安積さんの小さな飛行機械が姿を消した後からでいい?」
「うん。まずはそこから」
あの虫型のドローンは私のじゃないんだけどな、とは思ったけど、それは言わない。
「あの後には大したことはしていなかった。真宮さんは防衛隊の人に促されて大きなナイフを手渡して、その後に防衛隊の人たちが追加で到着するのを少しのあいだ待って、車に乗って去っていった。周りの人たちの様子は、若干おっかなびっくりというか、腫れ物に触るような雰囲気だったかもしれないな」
「その場には近づいたの?」
ドローン映像の最後に、叡一くんが窓ちゃんを囲む防衛隊に近づいている姿を本当は見た。
けど、知らないふりをして水を向けた方が話をしやすい場合っていうのは多い。
「僕かい? ああ、近づいた。最初の二人組の防衛隊の人たちにはかなり警戒されたよ。でも自分がイルカで、手伝えることを探しているんだと言ったら、追い払われるようなことはなかった。真宮さんとクラスメイトだから話してもいいかと聞いたら、邪魔されてしまったけどね」
空を飛んでいる叡一くんがイルカだというのは、防衛隊としてもだいぶ信じやすい話だったろうとは思う。噂になっていたから、前回の襲撃の時にこのあたりにイルカが居ることは知れ渡っているのだろうし。
「うん。それで?」
「それでというか、それぐらいさ。僕はあまり話もさせてもらえなかった。ああいや、後から来たおじさんの立ち会いで、連れて行かれる前に少しだけ話しをさせてもらったよ。ただ、特に聞きたいことも思いつかなかったから、クラスメイトや安積さんになにか伝言はあるかと尋ねたんだ。ても真宮さんは、首を振るだけで口も開いてもらえなかった」
「えっ? あたしに伝言?」
「安積さんと真宮さんは仲良しだからね。おじさんにも安積さんって誰なのか聞かれて、同じように答えたよ」
「窓ちゃんの一番の仲良しって言ったらユカちゃんだと思うけど……」
「ユカちゃ……、ああ、深山さんね。深山さんはなんだか事情を知っているような事を言っていたから、僕が聞くまでもないかと思ったんだ」
「ユカちゃんが事情を知っている? その場にはユカちゃんも来てたの?」
ユカちゃんも防衛隊だから、窓ちゃんのところに来た人に混ざっていてもなにも不思議ではない。ハルカちゃんのカメラからは見えなかったけど、その後で来たのかもしれない。
「ああ、いや、深山さんは来てなかった。TOXが来る直前に僕が真宮さんに会っていて、そのときに真宮さんから聞いたんだ」
「うん? 窓ちゃんが戦う前に叡一くんと話してたの?」
これは知らなかった情報だ。行方不明だった時間帯の窓ちゃんの居場所についての貴重な証言なんだけど、叡一くんは窓ちゃんがその時間帯に消息不明になっていたということも知らなそうだけど、ここは知らせずにいてもいいだろう。
「そうだよ。その時の話だと、深山さんは事情を知ってそうな様子だった」
「いや、ユカちゃんはたぶん知らなかっただろうなぁ……。窓ちゃんはなんて言ってた?」
「なんだっけ? あ、そうだ。お礼のことは深山さんに相談するように、みたいな事だった。お礼なんて貰うつもりはなかったから、すっかり忘れてたよ」
お礼?
窓ちゃんは叡一くんと会って、お礼が必要になるような話をした。
なにかを聞いた、ということだろうか。
「それは……。どちらかといえば事情を知らなくても取り計らってくれるよ、という意味だと思う。二人は姉妹みたいなもんだから」
「ふーん。そういう意味か。じゃあ、深山さんにも伝言を聞かなかったのは悪かったかな」
「いや、別に悪くないよ。よくある行き違いだから。私もちょっと気になっただけ。それよりも、TOXと戦う前に窓ちゃんと話してた方が気になる。なんでそんなことになったの?」




