7月13日(水) 15:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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7月13日(水)
15:30
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とにかく、叡一くんと約束をした三十分後までに幹侍郎ちゃんの世話のことをまずはなんとか目処をつけないといけない。
つまりハルカちゃんにお願いするしかないんだけど、なにをしてもらうか。
「ハルカちゃん!」
と、斜め前に居るハルカちゃんに声をかける。
ハルカちゃんがあらぬ方を向いたまま、無言で、手を挙げ、掌をこちらに向けてよこす。待て、の意味かな?
おそらく自分に内蔵されている携端でリモプレをしているんだろうけど、普通のリモプレと違うのはハルカちゃんが喋っていないこと。ハルカちゃんは実際に声を出さなくても、リモプレで音声会話ができるということなのだろう。
あれがどういう仕組なのか、人間に置き換えて考えるとけっこうおぞましい感じになってしまうのだけど、そもそもハルカちゃんが人間でないから人間に置き換えて怯える意味もない。とりあえず考えないことにしよう。
「お待たせ」
「ハルカちゃんにお願いがあるんだ」
「なに?」
「幹侍郎ちゃんの面倒を見て欲しくて」
「ん? どういうこと?」
「ゴジが自首しに行って幹侍郎ちゃんの世話を頼まれたんだけど、叡一くんがこれから来るらしくて、その相手をしないといけないからその間の幹侍郎ちゃんのお世話をね、ハルカちゃんにお願いしたいんだ」
明らかに説明不足だけど、あまり詳しく説明する時間もない。
「複雑な事情だね。叡一くんが来てる間のお世話はいいけど……、私は勉強なんて教えられないよ?」
ハルカちゃんはあっさり引き受けてくれる。
ユカちゃんと話している時に隣りにいたから、ぼんやり事情を知っているという気もする。
「それは、一緒に遊んでくれたらいいから。ゴジがいないだけでも可哀想なのに、まさか放っても置けないし」
「……意外と大丈夫なんじゃないかと思うけど、まぁ分かった。でも、佐々也ちゃんも一緒に来て、幹侍郎くんに事情の説明はしてあげてね」
「それは……そうだ、ね。行こう」
幹侍郎ちゃんの部屋に降りて行って事情の説明。
とは言っても逮捕のことは伏せて、ゴジは用事で今日は来れないとだけ説明する。
ゴジが居なくて寂しそうにしてたけど、たぶん明日には来れるからと言って宥めた。
それから窓ちゃんが来れない事と、今日はお客さんが来るから私もしばらくはここに居られないこと。だいぶぐずられてしまったけど、今日は勉強じゃなくてハルカちゃんと遊んでいいよと伝えて納得してもらった。
幹侍郎ちゃんは一緒にゲームしたいと言って、撃ち合いをするゲームを用意し始めた。
ゲーム機自体は市販のもので、幹侍郎ちゃんが使うコントローラとモニタだけゴジが用意した特別に大きいものだ。市販のコントローラもゲーム機に繋いであるので、簡単に一緒に遊ぶことはできる。
お姉ちゃん、ゲームできる? って幹侍郎ちゃんがハルカちゃんに聞いている。ハルカちゃんの普段の感じを考えたら、たぶんゲーム一般かなり上手いと思うけどそこは黙っておこう。思いがけない強敵。そういうのも楽しいだろう。
幹侍郎ちゃんとハルカちゃんが遊び始めたのを見届けて、私は上に戻る。
気が重いけど。
私が席を外そうとすると幹侍郎ちゃんが気づいて声をかけてきた。でも、また来るから遊んでてねと言ったら、うんと言ってゲームに戻ってくれた。聞き分けてくれるいい子だ。
上に戻って隠し扉を閉めた後、まだ少し時間があるので、穴の底で頑張ってカモフラージュをしてみる。と言っても、繋ぎ目に砂をかけたり小石を転がしてみたりという小細工ができる程度。
そもそも穴の底まで見せるような予定はないから、カモフラージュをする意味だってあるのかどうか。




