……7月13日(水) 13:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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「それが、僕にはわからないんだよ。ただ、安積さんは興味があるかもしれないと思って。ね?」
「え、私? ああ、うん。窓ちゃんの話なら聞きたいかも」
「叡一くんは窓ちゃんがTOXと戦ってるところを見たの? それは俺も興味があるなぁ。俺も一緒に遊びに行っていい?」
「それは遠慮して欲しい。広く公おおやけ()になると真宮さんには差し障りがある事もあるかもしれないから」
差し障り……。
そうだよなぁ……。窓ちゃんもイヤだろうし、それだけじゃなくて私にも差し障りがある。ハルカちゃんのドローンの話なんて、たま相手には話せないもんなぁ。
「公にしてはいけない話……。そうなのか? 佐々也ちゃんも同じ意見?」
これは……、困った。
いつも紳士のたまにしてはらしくないぐらい食い下がってくるのは、これはどうも私に助け舟を出してくれているようだ。たまは本当によく気の回るいいやつだ。
ただ、たまは私が窓ちゃんの戦いを見ていたことも知らない。
叡一くんとの話ではそれが前提になるから、一緒に話を聞くとなると肝心の部分の話ができないことになる。逆にたまの申し出を断るにしても、私がなにを見たのかたまに察し取られてしまうのも困る。
なんと言うべきか……。
「……」
「佐々也ちゃん?」
「あ……ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「佐々也ちゃんによくあるやつだ」
ふふっ、と言ってたまが笑っている。
よくあるのか……。そうかもしれない。
「ええと……。窓ちゃんはあんまり戦ってるところとか誰にも見られたり知られたりしたくないから。だから、たまはその、ごめんね……」
自分で言っていてあれだけど、たまだって窓ちゃんとは幼馴染なんだから、窓ちゃんの秘密ってことなら私と叡一くんが内緒話をする理由にはあんまりなっていない。それはたまにも判っているようで、続きを促すように少し待たれてしまった。
私がおたついていると察するところがあったようで、それも切り上げてくれた。
「そうか……。なら仕方ない。でも、その話が終わってロケットの話とかすることになったら俺も呼んでよ。メッセしてくれれば行くからさ」
「うん、ありがとう」
優しい。
こういうとき、あとからこっそり聞いて来たりもしない。
たまは本当にいいやつだよ。色々と秘密にしてるのが心苦しい。
「魁、すまないね、秘密にするようなことをして」
「仕方ない。プライバシーってやつだよ。でも、お前らもあんまりこそこそ噂話するようなことはするんじゃないぞ」
「私はそういうの苦手だから……」
私が言うと、たまは苦笑いをしている。
「佐々也ちゃんはね、確かにそうだ。叡一くんも、佐々也ちゃんが嫌がるようならやめるんだよ。人間の勝手がわからないなら俺に聞いてくれていいからさ」
「お気遣いありがとう。気を悪くした様子もないし、魁はいい奴だな」
「なに、いいってことよ。気にしないでくれ」
面と向かって言うのか……。
イルカの感覚はわからん。
それに比べてたまの清々しさ。
いいやつだ、本当に。
「じゃあ安積さん。家に行って……、呼び出すのはどうしたらいい? 前に言ってたのと同じなら、勝手に家に入ってはいけないんだよね?」
「入口の門があるから、そこから歩いて入ると、正面にドアがある。そこの横についてる呼び鈴を押してくれたら良いよ」
「建物の入り口に行くために通るところが決まってるのか……。複雑だね……」
なにを言っているのか、と思ったけど、なるほど。イルカは三次元なのか。
「平面方向にしか移動しないのが人間には普通なんだよ。門から先は事実上の閉鎖空間なんだ」
「ああ、そういうことか! 分かりやすい。やっぱり安積さんは説明が上手いね」
「ただ、来るのは三十分後にしてね。さっき言った用事のことがあるから」
「分かった。三十分後だね。それで、歩いて門から入って歩いてドアに行って呼び鈴を押す。ボタンかい?」
「ボタンだよ。ドアの横にはそれぐらいしかボタンはないから、間違えたりはしないと思う」
「横ね。並んでいるってことだね?」
「……。地上では上下が固定だから、横と言えば左右方向の隣だよ。呼び鈴は……、右だったかな? しばらく押してないから忘れたけど」
「地上では上下が固定。……言われてみればそうだ。いままで意識してなかった」
そういう意味じゃなかったのか……。




