7月13日(水) 10:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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7月13日(水)
10:30
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二時間目の授業中、散々悩んだ末にゴジには普通に教えることにした。
授業が終わる時間を見計らって一階に降りて、対面でゴジに伝える。
窓ちゃんが銃刀法違反で捕まった。マチェーテの出どころが問題らしいようなことをユカちゃんが言ってた。ユカちゃんにはゴジが作ったってことは昨日の連絡があった時点で話してるから本当は知ってる。どうやらユカちゃんはその時に話をしたことを防衛隊に隠したいらしい。窓ちゃんの逮捕についてはクラスのみんなには秘密。
マチェーテの件はいまのところ警察まで話が行っておらず、防衛隊の内部で解決できれば窓ちゃんの罪は軽い。でも窓ちゃんは白状しない。ユカちゃんからは窓ちゃんを説得するために、窓ちゃんが好きな人から連絡が欲しいんだってさ、と。
「え? 好きってどういうこと? それなら佐々也のほうが仲良しじゃん」
「それは……」
『どうやら窓ちゃんはゴジのことが好きらしいよ』と言っちゃって良いものかどうか判断がつかない。私がここで勝手に教えたら窓ちゃんを傷つけてしまうだろうし……。というか、本人とか周りの人にいつ伝えるのかを決めるのも窓ちゃんの権利なのであって、簡単に他人が踏み込んで良いようなものではない。
「うーん……。ユカちゃんの話しぶりからすると、事前に知ってた人が少ない方が良いと思ってるらしくて、私抜きでゴジから直接マチェーテの話を聞いた体裁を作りたいんじゃないかな?」
「それって好きとか関係なくない? それに、そんなことしてなんの意味が……」
なんであのユカちゃんのほのめかしでゴジのことを思い浮かべたのか、それはまぁ公然の秘密みたいなもんなんだけど、ゴジは噂の当人なのでその秘密を共有していない。
急いで取り繕わないといけない。
「えええええっと、す、好きな人って言い方ということは私じゃなくて、つまり誰か男の子って意味だと思ったんだよっ! 私は友達だからね。どういうつもりでそんなことを言ったとか、その辺の細かいことは聞けなかったんだ。通話中のユカちゃんの周りには人がいたらしくてなにかを誤魔化してる雰囲気だったから、なにを言いたいのか勝手に読み取るしかなかったんだ。それで、刑法に抵触したんだと思えば取り調べとかがあるのかもしれないし、私とゴジが両方とも拘束されて家を離れると幹侍郎ちゃんが可哀想だからどっちか、どっちかなら私じゃなくてゴジだけとか、そういうことなんじゃない? かなーって……」
ゴジは鈍そうな目でこちらを観察している感じだったけど、途中から少し様子が変わった。
「刑法……。そうか、そういう話なんだよな……。え? じゃあ窓ちゃんは大変なことになっちゃってるんだ……」
「そうなのよ」
のんきな事を、という気持ちにもなるけど、本当は私の気持ちもゴジの方に近い。
私もピンと来てないのだ。というか、ここ最近はピンと来ない話ばっかりだ。
「まぁ、とにかくユカちゃんに音声で連絡してあげて。私から言われて連絡したって言って後はすっとぼけてればいいんだと思うよ。要するにマチェーテの話をユカちゃんに教えさえすれば良いはず」
「……わかった。銃刀法違反か……。僕も逮捕されちゃうのかな……」
「私には法律の知識なんてないからさっぱりだけど、窓ちゃんのことも含めて全体的にユカちゃんが良いようにしてくれると思うよ。あれで友達想いなところがあるし」
「窓ちゃんのためになることはするだろうけど、僕のために取り計らってくれるのかな……」
「いや、そこは大丈夫だな。ああいうタイプは親しい相手ほど厳しいから」
「そうだといいけど」
と、言いながらゴジが端末を持ち上げてユカちゃんに音声通話をしはじめた。
「私は聞かないでおくからね」
私はそう言い残してその場を立ち去った。
もうすでに遅刻だけど、リモプレで三時間目の授業には出ることにする。




