……7月13日(水) 9:35
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「ピストルじゃなくて大きな機関銃だよ。防衛隊の貸し出しのやつ。この前に戦ってるときに撃ってるのを見たはずでしょ? でも銃だけじゃなくて、どこで手に入れたか知らないけど、なぜか刀を持ってたらしくて、それが問題になってるの。窓が入手先を白状しないらしくてさぁ」
窓ちゃんのマチェーテはゴジが作ってガレージから持っていったやつで、昨日の夕方に連絡が来た時にユカちゃんにも話したはずだ。だからユカちゃんはなんで窓ちゃんがマチェーテを持っているのかも、どこから手に入れたのかも知ってるはず。
「もうっ。とにかく聞いてよ!! それで、窓が白状しないと話が進まなくて困ってるらしいのよ。聞けるだけの話が聞けないと、家に帰すこともできないって話で」
なにこれ?
私はなにも言っていないのに、ユカちゃんは私の言葉を遮って話を続けるような事を言っている。
聞こえてない?
あ、いや、さっきの授業をサボる話の時は会話が通じたから、それは違うか。
つまり、わざととぼけてるのか……。でも、なんで?
「いまどこ? 警察?」
「え? ここ? ここは防衛隊の基地署だけど」
「逮捕って言わなかった?」
「防衛隊は大袈裟に言えば軍隊みたいなもんだから、行動中には警察権みたいなものがあるんだよ。だから防衛隊に逮捕されてんの。とはいえ、窓にしてみれば防衛隊は身内だからね。防衛隊の業務の範疇、もっといえば基地署の範疇で話が済めば問題も小さめに片付くみたいなところがあって……」
「えっ? そんなのありなの?」
扱う人によって罰則が違うって、それは司法の腐敗なのでは?
いやまぁ、窓ちゃんの罰が軽くなる分にはいくらでもありがたい。
でもなんか釈然としないものがある。
「ありもなにも当たり前でしょ? 道端のケンカだって通報しなかったら喧嘩で終わりだけど、警察が出てきたら大事になるんだし」
「当たり前なのか……」
ユカちゃんの言うことは事実としてその通りだ。
でも、行動中の警察権がある防衛隊がそれをやったら不公平なんじゃないだろうか?
いいのか法治主義!
そんなことで大丈夫?
「とにかく! 窓が喋らなくて聞き取りしてる人が困ってるらしいわ。私は窓の付き添いで署に居るから、聞き取りの手助けでもしてあげられたら良いんだけど……、あんなものをどこで手に入れたのかとか、なんで欲しかったのかとか、いろいろと手掛かりがなくてね」
いや、昨日教えたんだからユカちゃんも私も知ってるだろうよ、とはとっさに思うんだけど、さっきの強引なすっとぼけ方とこの不自然なしつこさ。
多分これは私に言わせたいことがあるってことだよな……。
「あ、ちょっと待って。常勤の人が来た。……はい。あ、いえ、大丈夫です。同級生の安積さんです。学校を休んでる理由を聞かれたからちょっと説明をしていて。幼馴染だし、この前の襲撃の関係者でもあるので、窓のことを話したらちょっと心配してるらしくって……」
ああ、近くに人が居るのか。
やっぱり。
このややこしい話し方にはなにかあるだろうとは思ってたけど、ユカちゃんは私と一緒に周りに聞かせるつもりで喋ってるんだな。ユカちゃんとしては、現在の防衛隊での立場としてはマチェーテの入手元を知らないことになっている、ということだ。
つまり、それに関してはユカちゃんの返事に期待しないで、こっちはこっちとして勝手にしゃべるしかないってことだな。
「ごめん、佐々也。あんまり喋るなって言われちゃった。ここで聞いたことは内緒にしてね」
「もしかして私は知ってない方が良い?」
「やだ、佐々也があのバカでかいナイフのことを知らないなんてもちろんわかってるわよ。そうだ、話は変わるけど、窓って最近好きな人が居るらしいんだけど、佐々也はなんか聞いてる? あんた、最近は窓と仲良くしてるからさ」
あー、ゴジと話がしたいのね。
ユカちゃんと私で窓ちゃんがゴジを好きだって話はしたことがないけど、もはや公然の秘密みたいなものだ。ぞっちゃんもクラスメイトから確かめるように頼まれたりしていた。
「次の休み時間にゴジからユカちゃんに連絡させるよ」
「急に話が変わったわけじゃないわよ。窓にほら、白状させるのになんか材料があった方が良いんじゃないかと思ったってこと。あの子は頑固だから、私が言って聞かせるだけじゃたぶん上手く行かないからさ」
会話が成立してないけど、これも周りに布石を打ってるんだろう。
「なにか心当たりがあったら、また連絡してよ。あと、逮捕のことはこっちから報告するから、クラスのみんなには内緒にしておいてね」
「あー、了解。内緒にしておく」
「じゃあね。また連絡するから」
「あいー」
切られた。
いやしかし急展開というかなんと言うか。窓ちゃんが逮捕されるなんてなぁ。
違うか。こんなそんなのん気な話ではないよな。
さてさてゴジにどうやって切り出したもんか。
とりあえず、次の休み時間に話がある、とだけ学校の端末でダイレクトメッセをしておく。




