……6月21日(火) 12:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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悩んだ結果、夏みかんを買った。
教室に帰ってくると、みんなはお昼をまぁまぁ食べ終わっていて、おしゃべりをしたり端末をいじったり思い思いで過ごしていた。
窓ちゃんはゆっくり食べていたから、近くに座って一緒に食べることにする。
「え? 佐々也、それお昼?」
食べ終わったユカちゃんが私の夏みかんを見つけて笑っている。
「そうだよ。あんぱんが無かった」
「他のパンは?」
「味噌マーガリンとかしかなかったから、あんまり美味しそうと思えなくて……。そうしたらとうもろこしが売ってて、美味しそうだからちょっといいと思ったんだよ」
「あー、とうもろこし良いね。でも、茹でたの売ってたの? 鶴賀商店で?」
「生。生というか、普通に皮も剥いてないやつ」
「美味しそうでも茹でないと食べれないじゃん」
「そうだよ。だから諦めた。それで、さくらんぼと夏みかんも売ってたから、さくらんぼじゃご飯としてはあんまりだと思ったから夏みかんを買ってきた」
「スナック菓子とかなかったの? そっちのほうがお昼向きだと思うけど」
「あー……。言われてみればそうだね。とうもろこしで頭いっぱいで思いつかなかった。とうもろこしから頭を切り替えても果物がギリギリだった……。果物がなかったら諦めて帰るところだったよ」
「……まぁ、佐也らしいかもね」
らしいとは……。
こういう話をつきつめてもあまりいい思い出がない。嫌われているわけではないというのは間違いないと思うけど、この先を聞き出そうとすると問い詰めるようになってしまって嫌な感じになる。ここはあんまりそういうことを言わない窓ちゃんに話かけよう。
「そうだ窓ちゃん。今朝、TOXの予報が出てたよ」
「うん、知ってる……」
「窓ちゃんも出動?」
「それはまだわからない。私、高校生だし、隣の県ぐらいまでしか連絡こないから」
「あー、そうなんだ。そういえばいつもそんな感じだね」
うん、と言って窓ちゃんが首肯する。
「え? TOXの予報? どんな?」
教室のテレプレ用端末で下の街のクラスメイトと話していたぞっちゃんが、聞きつけて話に混ざってきた。それにユカちゃんが応じる。
「みぞれ、下の町の子と話してたんじゃないの?」
「話してたよ。遊ぶ約束して、話し終わった。でもTOXが来ると約束がつぶれるかもだし」
「予報はまだ先だったから、かなり広くて、中国とかロシアも入るぐらいだったよ」
ちょっと、だいたいしか覚えてない。
「ざっくりだなー。でもそれぐらい広ければ、約束は大丈夫そうかなー」
「大阪を中心に三千五百キロ」
ユカちゃんは知ってたらしい。
「あー、大阪なんだ。この辺が真ん中に見えたよ」
「私が聞いた話だと大阪だって。まぁ、これぐらい広かったら、この辺も真ん中みたいなもんだけど」
「じゃあ、日本には来るね」
「予報円はすごく広かったから、まだわからないよ?」
ぞっちゃんが心配そうにしている。私はそうは思わなかったので、素直にそう答えた。
「ああいうのは真ん中に来るでしょ。だいたいはそうなんだし」
「海に落ちたりはしないかな? 予報円の中は八割ぐらい海だったし」
私はああいう予報図を見ると全箇所に均等に分布するような気がするので、いつもみんなは心配し過ぎだと感じてしまう。ただ、周りのみんなは同じように自分より心配しているので、たぶん私のほうが標準的な反応でないんだろうけど。
「TOXは海には落ちないよ。基本的に人間が居るところを狙ってくるんだから」
ユカちゃんが鋭く切り返してくる。
「え? そうなの? じゃあ、なんで予報は円なんだろう……」
「遠い段階のTOX予報は、宇宙に居るTOXの速度を観測して到着時刻を計算してる感じだから、TOXの行動パターンまでは計算に入ってないの。もう少し近づくと、各地での確率予測が出るでしょ?」
さすがユカちゃんは詳しい。窓ちゃんと一緒に防衛隊をやってるだけある。
「はへー。海に落ちたTOXは泳いだりしてるのかと思った」
「TOXって泳げるのかな……?」
「泳げない。水上を移動することはできるけど水中に入ると浮いて来れない。みぞれも、佐々也のボケをあんまり拾わなくていいからね?」
ぞっちゃんの疑問にユカちゃんが即座に答える。