……7月13日(水) 8:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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「あー昨日ね、窓ちゃんが行方不明になってたから、それを教えとこうと思って」
私が伝えたら、眠そうだったゴジの目がぱっと見開かれた。目が覚めたんだろう。
「は? 行方不明? TOXと戦ってる最中にって事!?」
「違う違う! TOXはぜんぶ窓ちゃんが倒したよ」
「その後に行方不明になったの!?」
「違うよ。その前。少しややこしい話なんだ。昨日の勉強の後、私が上にあがった時にユカちゃんから連絡があって窓ちゃんが行方不明になったって言われたの」
「えっ!?」
「それで予感があって、ガレージを見に行ったらマチェーテが持ち出されてた。それをユカちゃんに伝えたら、もうTOXが来る時間だから窓ちゃんを探しに出かけちゃいけないって事になったんだけど、ハルカちゃんがドローンを出してくれて空から探してたんだ。そしたら窓ちゃんがTOXと一人で戦ってるのを見つけて……」
「ドローン? なんてどこにあったの?」
「ハルカちゃんが出してくれた。それでそのドローンで窓ちゃんを見てたら、青くて大きいTOXを倒してとどめを刺してるところに防衛隊の人が来てくれた。窓ちゃんはそこでマチェーテを防衛隊の人に預けてた。ここまで見た時にドローンの電池が切れそうになって戻っちゃったんでこの後はわからないんだけど、防災無線とかニュースとかで確認しても他にTOXは居なかったみたいだから、ぜんぶ窓ちゃんが倒したんだと思う」
「うん?」
「これで終わり。窓ちゃんが行方不明になってたっていうのは、こういう話。だから今はもう行方不明じゃないんだけど、ゴジも知りたいかと思って」
「ああ、なるほど。知りたい……わけじゃないけど、教えてくれてありがとう」
ゴジはトーストにマーガリンを塗ってケチャップをかけた謎卵と一緒に食べている。飲み物は牛乳。別に美味しそうでもない朝食を食べながら、私から聞いた話を頭の中で整理しているようだ。あんまりピンときてないんだろうという感じがする。
「話のあらすじだけ分かった感じだなぁ。あれ? つまり佐々也は窓ちゃんがTOXと戦ってたのを見たってこと?」
「見たよ」
「TOXって強いんじゃないの? 窓ちゃん一人でどうやって倒したの?」
「最後の大きいやつと戦ってるところしか見てないけど、たぶんマチェーテなんじゃないかな。小さいTOXは切られて散らばってたから」
大きいのとぶつかってお互いに弾け跳んでという、いかにも怪物性のある部分は言わないでおくのが良いだろうと思う。窓ちゃんが変身後の姿を見られたり戦っている時の話を聞かれたりするのを嫌がるというのは私達幼馴染みんなが知っている。めずらしい秘密の部分だ。
「あれが役に立ったんなら、そこは良かったな」
「言われてみれば、ゴジもお手柄だったのかもね」
「そうだと良いけど……。あんまり使えない能力だと思ってたんだけど、実際に役に立つのは嬉しいなあ。知ってる人の役に立ったなら余計にさ」
ゴジは謎卵をフォークで掬って食べながら、いかにものんきな感想を述べる。
地下にあんな巨大な部屋を作ったり、子供一人作っておいて使えないもなにもないと思うんだけど、そんなことを思っていたのか…。わからんもんだね。
窓ちゃんもそうだし、ゴジもそう。私から見たら能力があるのは無条件に羨ましい気がするのに、能力者たちも能力者たちなりにそれぞれに思うところはあるもんだ。
「……。私から言っておきたかったのはこんなとこ。あっ、でも窓ちゃんは戦ってるのを見られるのを好きじゃないから、私が見てたことは秘密にしてね」
「かっこいいと思うんだけどなあ……」
ゴジはゴジで自分の能力に不満があるのに、窓ちゃんの気持ちには気が付かない。
斯様に世の中ってのは大変なものなのである。
とはいえ、よくあることなんだろうと思うけど。
「それは本人に言ってあげなよ。私は見てたのがバレたくないって事だから、秘密にするのはお願いね」
私から見ても戦う窓ちゃんの姿はかっこいいとも思うけど、同時にちょっと怖かった。
窓ちゃんだから本当に怖いわけじゃないけど、私が怖いと思ったことはゴジにも内緒だ。こればっかりは本当の本当に秘密にしないと。




