7月12日(火) 18:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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7月12日(火)
18:45
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眼の前のモニターが帰りがけの景色を映している。
現場は意外と近い場所、というか、大回りの道を車で数分行ったところのようだ。
窓ちゃんのところに防衛他の人達が来てくれてひと安心できたのは良かった。
ドローンの帰りがけ、モニタに映っている解像度の低い森の映像をなんとなく眺めながら、青虫であろうTOXを切り刻んでいた窓ちゃんの姿を思い浮かべる。どうやら、窓ちゃんは私がぼんやり思ってたより遥かに強いっぽい。
窓ちゃんは戦車ぐらいになら勝てるという噂話を聞いたことがあるものの、これまではちょっと意味がよくわからなかったというか、具体的なイメージとしては思い浮かばなかった。いま、窓ちゃんが実際にトラックみたいな大きさのTOXと戦ってやっつけているのを見て、やっとイメージできるようになったかもしれない。
強い敵と戦って勝つ姿っていうのは、ああいう感じなのか……。
生活空間で見るハルカちゃんドローン中継は、アクション映画のようなわかりやすくて大迫力という感じの映像ではなかった。それでも、ぶつかって跳ね飛ばされたと同時に敵をやっつけていたように見えたし、その後に切り裂いていたのはとどめを刺していたんだろう。さっきまで動いていたものを淡々と切り裂く窓ちゃんの姿を不覚にもすこし恐ろしいと感じてしまった。
正直な所、戦いのときになにがあったのかもっと詳しく知りたいとは思う。でも窓ちゃん自身は自分が戦いに強いことをあんまり喜んではいないので、本人から聞き出すのは残酷だ。私のその場限りの好奇心と窓ちゃんの心の安全で比べたら当然窓ちゃんの心の安全の方が大切だ。これは我慢するしかない。
私から見たら戦闘力が高いのはかなり単純に羨ましいと感じることだ。隠す必要なんてないのではないかと思うんだけど、窓ちゃんとしては戦う姿を見られたら怖がられてしまうという懸念があるのだろう。実のところ私も戦う窓ちゃんの姿がちょっと怖かったから、その懸念は杞憂ってわけじゃない。
そういえばユカちゃんが窓ちゃんを探してたから見つかったことを教えてあげ……る必要はないか。
ユカちゃんも防衛隊だから、窓ちゃん発見の件は連絡が行っているだろう。
じゃあゴジに、と思ったけど、ゴジは窓ちゃんが行先不明になってたことも知らないんだから、見つけた話をしても伝わらないよな……。こっちは後でゆっくり知らせればいいか。
私はたぶん、窓ちゃんが戦っているところを目撃して興奮しているんだと思う。
重大なことを目撃したはずだという強い確信がある。
でも、それを伝えるべき相手が居ない。なんだか拍子抜けというか、変な感じだ。
まぁそれはいいや。他になにか気になっていたことはなかったっけ?
ああそうだ! 防災無線のことが気になってたんだった!
防災無線でTOXの状況をおおまかに放送しているはず。
前回は防災無線も聞こえてなかったことを防衛隊の人に驚かれた。今日はせっかくTOX襲来のときに意識して対策してるんだから、どうせなら防災無線も聞いておきたい。
でもゴジの家が町外れなせいで、ここからはあんまり聞こえない。
聞こえないのは知っているものの、念のため窓を開けて、薄明るい夜空に耳を澄ませる。
そうすると、風に乗って、森の音に混じって、音の割れた人の声が聞こえる。しかし惜しいことになにを言っているのかはわからない。予定通りである。普段から聞こえないんだから、今日に限って聞こえる道理はない。
実はこの防災無線はネットでも聞けるので、迂川郷の自治体のサイトを確認する。




