……7月12日(火) 17:50 安積佐々也:TOX到着直前
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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こうして考えると、もしかしたら動くぬいぐるみを動いている最中に破壊したりするとずいぶん残酷に見えるんじゃないかという気はする。思い浮かべるだけで、たしかに残酷な感じはする。実験してまで確かめる気はしないけど。
つまり、いまの私の感覚はその種の反応か。
窓ちゃんは悪くないし、怖くもない。
「え?」
私が窓ちゃんを見ていると、ハルカちゃんが驚きの声を上げた。
「どうしたの?」
「うん。あの、マイクが声を拾ったんだ。超指向性で意味ある音じゃないから、私だけ聞いてたんだけど……」
「私も聞ける?」
「わかった。モニタのスピーカから流すね」
そう言いながらもハルカちゃんはなにかを操作する感じでもない。まぁ、ハルカちゃんに内蔵された機能だから、操作してるところが見えないだけなんだろうけど。
「……れはどうだろう、聴こえるかな? 安積さん?」
「あたし!?」
「聞こえてたら返事をしてほしいけど、まぁ無理なのかな。わからないからこのまま話そうか。こんなに小さいドローンはかなり珍しいと思うけど、どうやって調達したんだろう。コンプレキシティの残照で安積さんだってすぐ分かったよ。なにか秘密があるんだろうけど、また話を聞かせてもらいたいなぁ。あ、防衛隊の人達が来たから僕は行くね。真宮さんがどうなるのか確かめてくるよ。安積さんのことは、しばらくは僕だけの胸のうちに秘めておくから心配しなくてもいいよ」
お……おう。
「向こうに返事できる?」
「無理。スピーカーなんてついてないから」
「じゃあいいか、胸のうちにしまってくれるらしいし。でも叡一くん……ハルカちゃんのことは分からないのかな? ドローンはハルカちゃんのものなのにね」
「そうみたい」
そんなことを話す間にも、画面には変化が起きていた。
叡一くんが見かけたという防衛隊の人が来て、窓ちゃんが保護されている姿が映されている。
窓ちゃんはなにかを言われて、持っていたマチェーテを防衛隊の人に手渡した。
「音は拾える?」
「だいぶ近づかないと意味のある音にはならないから……。バレるよ」
しばらくすると窓ちゃんは防衛隊の人達、数人に囲まれた。
叡一くんも同じ輪に加わってはいるけど話を聞いているだけのようだ。
「……佐々也ちゃん?」
「ん?」
「バッテリーが三分の一を切ったから帰るね」
「あ、うん。そうだね」
窓ちゃんがTOXと戦っているところに防衛隊が応援に来た、という状況のはずなんだけど、どうにもそういう感じには見えない。
そもそもTOXは窓ちゃんが全部倒しちゃったからもう応援はいらいように見えるからなのか、それとも他になにかの理由があるのか。防衛隊と窓ちゃんの距離感というか、お互いに話しているときの様子が仲間同士に見えないという気がするんだけど、防衛隊の人たちが普段はどんな風に話をしているかなんて知らないからなぁ。仮に私から見て普通じゃないとしても、基地に居る待機状態のときと曲がりなりにも出動している時とでは、振る舞いも違うのかもしれないし。
窓ちゃんの様子は気になるけど、こう遠いままではなにもわからない。声が聞こえたらまた別の判断ができるかもしれないけど、ドローンはもう帰る時間だから無理をして近づいてもらうのはちょっと難しいんだろう。ドローンの充電が持たないと言うなら帰ってきてもらうしかない。
だいたい、防衛隊であればそもそものところで窓ちゃんの味方なわけだし、戦闘の後処理にも詳しい。後のことは防衛隊におまかせするのが良いはずだ。仮に生身の私がその場に居たって、遠くから見ているしかできなかったことには変わりはないように思う。
無力だ。私はあまりにも無力。見て聞いてをしているだけで、なんにもしてない。
ハルカちゃんのドローンがその場を去る時、一瞬だけ叡一くんがこちらを見た。
知らんぷりはできないんだろうなぁ。
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
了
次回更新は11月1日の予定です。




