……7月12日(火) 17:50 安積佐々也:TOX到着直前
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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で、マチェーテを持って構えるのかと思えばそうでなく、穂先のない柄の方を持ってカメラの角度では見えないなにかを凝視している。
「窓ちゃんがなに見てるか分かる?」
「あー、ドローンの向き変えるね」
ズームアップしてた幹事のカメラの映像が一旦止まって、視線の方に視界が流れていく。
「車? キャタピラ? なにあれ」
なにか青い塊が猛スピードで窓ちゃんが居る方に向かっている。
キャタピラのようにも見えるんだけど、進むスピードと回転の速度がずれていて、見ていると混乱する。生理的に気持ち悪い。
「えっ、あぶない!」
窓ちゃんに体当りする気だ! ということで思わず声が出た。
その間に青い塊に棒が突き刺さって、青い塊は棒を刺したまま窓ちゃんに近づき、地面を蹴りつけたらしい窓ちゃんがフィクションみたいな勢いで跳ね飛ばされていく。
それと同時になぜか青い塊もつんのめって、上方向に飛び跳ねる。
「ちょ、ちょちょ! 窓ちゃんは?」
両方跳ね飛ばされたのは分かったけど、もう目が追いつかない。
ぶつかったからお互いに反発して飛び散ったという雰囲気ではない。反発ならお互いに正反対に行くはずだけど、窓ちゃんも青い塊も上に跳んだ。それにちょっとタイミングがズレていたように思う。そもそも窓ちゃんはなんで地面なんて蹴ったの? 窓ちゃんが地面を蹴ったから青い塊が跳ね上がった? 強い違和感があるものの、なにもわからない。
「待って……。あそこだ」
窓ちゃんは路上を横向きに転がっていた。
けど、少ししたら飛び起きた。
起きた!? 良かった。
無傷なはずはないけど、動けないような大怪我という感じではないのだろう。
私がモニタ越しに安心していると、窓ちゃんは路肩になにかを拾いに行く。行く先を見ると、さっきのマチェーテが落ちているらしい。跳ねられた時に落としちゃったのかな?
モニタ越しに見ているとなんだか現実感がない。この映像はここから歩いたって行けるような場所で起きてることのはずだ。窓ちゃんはTOXと戦っているけど、私はそれをぼんやりと見ている。
ぼんやりのまま見続けていると、窓ちゃんは路肩でマチェーテを拾ってから、徒歩ぐらいまで速度の落ちた青い塊に近づいて行った。そして、マチェーテを使ってその青い塊を切り裂いてゆく。青い塊からは時折反撃もあるみたいだけど、別に窓ちゃんのダメージにはなっていないらしい。
本体から切り取ったものを、マチェーテで更に細切れにしてゆく。
私もウレタンのマットを捨てるのに大きな塊をカッターナイフで切り裂いたことがあるんだけど、いま窓ちゃんがやってるのもそんな感じに見える。中身は均質で、割れたりはせず、切りにくいけど切ること自体は容易い。
そう見えはするけど、あの青い塊、TOXなわけだから、ほんとは硬いんじゃないかと思うんだけど……。
仲良しの友達が淡々とTOX(青虫っていう名前のTOXだと思う。話に聞いたことはある)を解体しているのを見るのは、なんとも言えない気分だ。
TOXは敵だって分かってるけど、さっきまで動いていたものだと思うと、淡々と切り裂いている姿はなんだか残酷なようにも見える。とはいえ、……それを言ったら草刈りなんてもろに生き物を切り裂いているはずなのに、こういう感想は滅多に持たない。敵味方という以上にTOXは生物かどうか定かでないというか、地球上の基準だと生物ではないらしいんだけど、動いているものを切り裂くのはなんだか残酷に見える。
こうして考えると、もしかしたら動くぬいぐるみを動いている最中に破壊したりするとずいぶん残酷に見えるんじゃないかという気はする。思い浮かべるだけで、たしかに残酷な感じはする。実験してまで確かめる気はしないけど。
つまり、いまの私の感覚はその種の反応か。
窓ちゃんは悪くないし、怖くもない。
よし、大丈夫。




