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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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……7月12日(火) 18:00 真宮窓

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 刺し込まれた槍が青虫の表面の回転に合わせてそのまま上に持ち上がる。

 このまま槍と一緒に青虫の履帯(りたい)に巻き込まれてしまう。それこそが、巻き込んで()き潰す青虫の主要攻撃だ。喰らえば助からないだろう。

 槍に巻きつけた左腕を慌てて放して自分の首に巻き付けるように跳ね上げ、脇の下に挟んだ槍で体を持ち上げられることを防ぐ。左腕を跳ね上げた時の振りが強すぎて、自らの膂力(りょりょく)のせいで体が右側に投げ出されてしまう。

 獣化によって反応速度もバランス感覚も大幅に強化されているから、マチェーテを握ったまま体を丸めて宙返りをし、着地の時に体を(ひね)って青虫に正対する低い姿勢で回転を止める。

 数瞬(すうしゅん)の身体制御不能。

 状況把握の中断。

 近接戦では命取りにもなる可能性がある意識の寸断。

 緊張して周囲に気を払うが、青虫もルークも私に向かってくる様子はなかった。

 むしろ、まるで攻撃などなかったかのように前進を続けている。

 頭目を狙ったら、集中的に反撃してくると思っていたが、そうではない様子。

 それどころか、青虫も私に向かってくるのではなく前進を続けている。

 青虫は木の槍を刺したまま進もうとしているが、その槍が地面につっかえて進めないし、履帯も回転もできていない。地面に埋まりこんだ槍に乗り上げるように青虫の全体が持ち上がっているが、周囲の木に邪魔されて上手く持ち上がることもできない様子だ。自分で勝手に宙吊りになっている。

 チャンスかと思ったものの、(とど)めを刺すにもちょうどよい()め時を見極められないことに気づいた。私には青虫がいつ死ぬのかがわからない。

 先行するルークたちはその間にも一歩づつ神指(こうざし)邸に近づくと思うと、気が急く。

 いったん捨て置くか。

 とはいえ瀕死に見える青虫相手になにもしないでもいられずに、手持ちのバトルライフルを予備弾まで含めて全弾青虫に撃ち込んだ。青虫には確かに弾の痕が残った。まだ動いているがノーダメージではないはずだ。

 これで青虫対策を切り上げて、先行するルークを追おう。


18:11

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 弾を使い切ったバトルライフルは、ここから先は単なる重いだけの荷物になってしまう。もう()らないので、ちょうど持っていた手元の刀でスリングを切り離して銃を捨てる。

 ルークを追うために、青虫を避けてその場を抜けようとした。

 しかし通り抜けの際に最も青虫に近寄ったその瞬間、履帯の側面から触腕(しょくわん)が伸びて私めがけて空間を横薙(よこな)ぎにしてきたが、間一髪で避けた。避けざま、触腕をマチェーテで切り落とす。

 こんなのがあるって聞いてない。

 さらなる追撃も気になるけど構いすぎるとルークが道を進んでしまう。木を影にして青虫との直線方向を(さえぎ)って、私は先頭のルークの方にに向かう。

 ルークたちは、いまや山間の車道に出るところだ。

 すなわち開けた場所での戦いになる。

 銃はもう無い。武器は護治郎くんの刀だけ。

 ここからは多対一の近接戦闘だ。


  *   *   *


18:12

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ルークたちを追って車道を見下ろす場所に到着した。

 背の低いブロック積みの法面(のりめん)になっており、車道はやや広めの上下すれ違い二車線。二車線ながら、高速道路との接続で大型車が通る見込みもあるため、道幅はそれなりに余裕がある。

 ルークたちはすでにすべて車道に降りており、道沿いに前進している。

 ルークの数をもう一度数える。五体。やはり予報通り。

 道の反対側はこちらより少し高い落差の谷となっており、ルークたちはそちらには降りていかない様子だ。

 この道はこの先で内向きのヘアピンとなっていて、そこから集落へ向かう最後の尾根筋を迂回する形になる。道沿いにこだわらなければ迂回せずに森を突っ切るコースもある。そちらの場合でも最大落差はこの法面の段差ほどもないし、尾根筋も高くない。

 いまはまだTOXの進行方向がどうなるかはわからない。

 二手、もしくはそれ以上に分岐されたら最悪の状況になる。

 ここで、ヘアピンにたどり着くまでの道のりのうちに決着しなければ。


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