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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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7月12日(火) 17:45 真宮窓

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。

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7月12日(火)

     17:45

       真宮窓

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 佐々也ちゃんの家の前で道を折れ、護治郎くんの家に向かう階段の前。

 ここにバイクを置いて、頼んでいた荷物を回収してきた。

 バイクの前で護治郎くんに貰った武器を改めて確認。

 鞘に入れられている大きなコンバットナイフと、コンバットナイフを取り付けて槍にするための金属の棒。伸ばせば二メートルほどになるこの棒、鋼線で繋がった三〇センチぐらいの束に折り畳めるようになっている。護治郎くんの機械は棒を伸ばしたときに締め込んで固めるのと折りたたむときにロックを外す役割をするらしい。

 置いてあったメモを見ながら、伸ばして、刃先(はさき)を取り付けて、外して、畳んでの一連の動作を一通りやってみた。書いてあるとおりにできるし、特に難しいことはない。

 握って存在感のある棒を何本も束ねるとそれだけでけっこうな(かさ)になるけど、ヘルメットホルダーを使ってバイクの荷台から吊るす。手書きのメモはお財布に入れておく。

 そのままバイクに乗り込んで叡一くんとの待ち合わせ場所へ。

 神指邸の脇にあるハイキングコースみたいな坂を登った先の展望台。

 ここは軽トラックがギリギリ通れるぐらいの道だから、バイクだって通れる。


17:48

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 展望台に着いたら、すでに叡一くんが待っていた。

 私はバイクを降りてヘルメットを脱ぐ。そのまま荷台の辺りの専用のフックにヘルメットを固定した。

「こんにちわ、真宮さん。それとも、もうこんばんわの時間なのかな?」

「え? ……夕方になりはじめたぐらいだから、まだこんにちわでいいと思うけど……」

「なるほど……。じゃあ、あらためてこんにちわ。それで、用件はなに?」

 夕焼けの光の加減で叡一くんの顔が影になって表情が見えない。声の感じからは、叡一くんの気分が掴みにくい。ちょっと不気味な感じがする。とはいえ呼び出したのは私だから、文句を言う筋合いではないのだけど。

「叡一くんにお願いがあって。……優花子から聞いたのだけど、TOXの居場所が分かるんでしょ?」

「ユカコ? ああ、深山さんのことだね。この前は安積さんと深山さんの話をしたなぁ。安積さんは、ユカちゃんって呼んでたっけ……」

 佐々也ちゃんと?

 そういえば、叡一くんと立ち話をしたようなことを言ってた。

「そうね。佐々也ちゃんは優花子のことをユカちゃんって呼んでる」

「それでなんだっけ? ああ! TOXの居場所だった。そうだね、居場所がわかるというか、TOXが通った痕跡が見える、という感じかな」

 私には些細な違いのように聞こえる。

「つまりそれを追えばTOXの居場所が分かる?」

「……そういうことになるね」

 人を食ったような返事だ。とぼけるつもりなのかもしれないという警戒心が起きる。

 でもそうじゃないかもしれない。呼んだのは私だし、呼び出しに気を悪くしているのかもしれない。

 腕時計を見ると、TOXの到着まであと十分。

 なんと言って切り出せば良いのか。でも悠長にもできない。

 不退転の覚悟で私は言葉を口に出す。

「その、もうすぐTOXが来ると思うんだけど、TOXが到着したらその場所を教えてくれませんか?」

「いいよ」

 ごく気軽な叡一くんの返答。

 断られずに済んだ。

「……」

 お礼をいうべきなんだけど、予想と違って簡単に引き受けてもらい、うまい言葉が出てこない。

「でも、なんで? まだ来ると決まったわけでは……。ああ、そういえば安積さんと親しいんだよね。彼女から聞いた?」

「ええ。そう」

「真宮さんは防衛隊じゃなかった? そっちからの依頼が来るとしたら、真宮さん個人が来るわけではないよね」

「いまの私は防衛隊じゃない。だから、私個人の用件」

 あっ。

 叡一くんにそんなことを教えていいのか考えてなかったせいで、つい本当のことを言ってしまった。まぁ仕方ないか。

「個人的な用件? どんなこと?」

 時計を見るとあと七分。

 携端の電源を切っているから、ストリームではTOX情報を確認できず、正確な時間ではない。とはいえ多少の前後はあるものの、多くて一分だ。あまり気にすることはない。

 用意しなければ。

「ごめん。驚かないでね」

 私はその場で変身する。

 他人に見られているけど、そんなことに構っていられない。

 力が一度抜けてまた戻ってくる。

 感覚が鋭敏になり、いつもより大きな力が満ちてきたのがわかる。

 時計を確認すると経過時間はおよそ四十五秒。いまは到着予定の五分前。

 バイクに乗せていた金属製の鞘を開いて、大ぶりのマチェーテを取り出す。

 マチェーテの横に吊っていた畳んだ棒を留め具で腰からぶら下げる。

 バイクに作り付けたホルスターに入れていたバトルライフルをスリングで肩から下げる。


17:57

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 三分前。

 鮮やかな朱に染まる夕方の空から、かすかな風切り音が聞こえてくる気がする。

 叡一くんから、質問されていたはずだ。

 答えなければ。

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