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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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7月12日(火) 17:05 安積佐々也

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「ごめんね幹侍郎ちゃん。また明日来るから、そのときに動画の話しようね」

「……うん」

 そう言って、地下からの道を私は戻っていく。

17:20

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 一人ではしごを登って、使用人部屋に戻った時、なんとも妙な感覚があった。

 部屋の時計を確認すると五時半前。TOXが迫っているとかではない。

 いわゆる『虫の知らせ』というやつなのかもしれない。

 もしそうだとしても、この虫がなにを知らせてくれているのかはぜんぜん分からない。

 普段はそんなことやらないんだけど、せっかく虫も知らせてくれたのだからと気まぐれを起こして、すぐに自室へ向かわず一階の戸締まりを一通り見て回った。まだTOXの時間じゃないので、TOXが居るかもという心配はない。

 しかし見て回っても、別になにもなかった。

 当てにならない虫だなぁ。

 まぁ、こんな予感が当てになるなら私は能力者だよね。能力の種類は、予知能力(プレコグニション)かな。予言者(プロフェット)とかもかっこいいかな。もし予知ができるとなったら、なにができるだろうか。やっぱり賭博が鉄板という気もするけど……。

 はぁ。

 ……無い能力のことを考えても仕方ないか。

 そうだそうだ、二人にアドレスを送ってあげなくちゃ。


17:38

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 階段を上がって自室へ。

 自分の端末を取り上げようと手を伸ばしたちょうどその時、通話呼び出しが掛かる。

「うわ驚いた」

 偶然タイミングぴったりだった。

 端末の時計は17:40。さっきから時間がよく目に止まる。

 発信元を確認するとユカちゃんだ。

 ユカちゃん? 防衛隊で忙しい時間帯だろうに。

「もしもしユカちゃん? なぁに?」

「佐々也! 窓居る!?」

「窓ちゃんは今日は防衛隊で来てないよ。ユカちゃんも防衛隊の日でしょ?」

「自宅に窓が居ないらしいのよ……」

「え? 防衛隊に行ってるんじゃないの?」

「窓は自宅待機」

「え? ああ、範囲内だから現地集合ってやつか」

「五時半の点呼を最後に呼び出しに出ないし、真宮のおばさんに聞いても部屋に居ないって!」

 自宅に居ないなんて当たり前というか、ちょっとコンビニに買い物にでも行ったんじゃないかと思うんだけど。いくら田舎でもいちおうコンビニはあるし、お菓子が欲しくなるぐらいのことはありそうだけど……。

 窓ちゃんが自宅待機中にお菓子を買いに出かける姿を思い浮かべようとしたけど、ちょっと無理だった。窓ちゃんはそういう時に真面目に待機する方の子だ。他にちょっとした用事といえば……、と考え始めそうになったけどそういうことじゃない。

「それは……、もしや大変なことなのでは?」

「だから泡喰(あわく)って連絡してんの! 心当たりは!?」

「無いけど……。あ、いや……」

「有るの!?」

「心当たりと言うほどはっきりしたものではないんだけど……。ちょっと見に行く」

「え!? なにを?」

「説明が難しいんだ。すぐだからちょっと待って」

 私は端末から耳を離して、ガレージに向かう。

 行きがけに、廊下から自室に居るハルカちゃんに声をかける。

「ハルカちゃん! 窓ちゃん知らない!?」

「窓ちゃん? どうかしたの?」

 ハルカちゃんが扉を開けて顔を出した。

「防衛隊の自宅待機中に行方不明だって」

「そうなの? えーと、GPSは防衛隊端末は自宅、個人端末も最終履歴は自宅17:31:50。その後は履歴なし。電源を切ったのかも」

 なんでそんなことがすぐわかるんだよ怖っ、と思ったけど、まぁハルカちゃんだしな……。

「ありがとう。そう遠くには行ってない、ってことだよね」

「それはわからないけど……」

「そうだね。ありがとう!」

 階段を駆け下りて、一階の廊下を左へ。

 一階の一番奥の廊下、庭の反対側に向かうとそこは半地下のガレージに繋がった室内階段がある。その階段を下り切ると、狭いフロアに鉄製の重い扉。

 扉の前には少し広めのマットがあって、そこで外履きに履き替える。

 マットの上には共用のサンダル。それを履いて、内開きの扉を引いて開ける。

 ゴジと窓ちゃんが約束していた場所に、開け放しの空のダンボール箱が置いてあった。

「やっぱり、無い!」

「なにが!」

 私の声は意外と大きかったらしく、電話の向こうのユカちゃんにも届いたらしい。

 別にハンズフリーとかになっているわけでもない通話の向こうから、かなりの怒鳴り声になっているユカちゃんの問い返しが聞こえてきた。そのまま耳をつけると音量がヤバいので、一呼吸置いて怒鳴り声が収まっているのを見てから端末を顔に寄せて答えを返す。

「マチェーテ」

「は? そもそもマチェーテってなに?」

「鉈と刀の合いの子みたいなやつ」

「それと窓になんの関係があるのよ!」

「ゴジが窓ちゃんに作ってあげるってこの前約束してたんだよ。それが無いの! 持って行ったんだと思う。つまり……」

「つまり窓はその近くにいるのね?」

「おそらく……」

 GPSの最後の信号が五時半ごろの自宅ということだから、計算も合う。

 さっきの虫の知らせはこれだったか。

 いや、虫の知らせは五時半より前か。やっぱり予知能力だった。

 ノーノー私にそんな能力はない! いまは思考を迷走させてる場合じゃない。

「探して! あ、いや、もうTOXの時間だわ。家から出ないで」

「そうだね……」

 そう言いながら、すぐ外に窓ちゃんがいないかどうか、いちおうガレージの外扉を開けて確認してみた。やっぱりそこには窓ちゃんは居ない。

 でも、居たんだろうな、という感じは残ってる。

 気がする。

 砂利道に窓ちゃんのバイクの跡が残っている気がするけど、たぶん気のせいだな。


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