7月11日(月) 17:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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7月11日(月)
17:45
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写真のあと、試作一号ロケットの打ち上げ。
しかし実を言うと、これが失敗に終わってしまった。
試作一号の初回打ち上げの予定では、燃料を三〇〇メートル打ち上げの規定量入れて、打ち上げ後にはペイロードに積んだキット付属の使い捨てパラシュートを開いて回収する計画になっていた。
発射台点火装置のカウントダウンから、打ち上げまでは文句なしに成功。
その後、ロケットは直上に打ち上がらず明白に斜めに向かって上昇してゆき、燃料が尽きるところまで飛んだ後、パラシュートが開かず、山というか森の中に落下。
「やった! 打ち上げ成功!」
といってぞっちゃんは喜んでくれたけど、私の気持ちは暗い。
打ち上げることはできたけど、打ち上げた後は思ってたようにはならなかったからだ。
確かにぞっちゃんの言う通り「打ち上げに成功した」とは言っても良いのかもしれないけど、思ってない方に飛んでいくのとか、ペイロードの積荷の動作が不調だったことははっきりと不吉だ。
不吉というか、ゆくゆくの最終目標である叡一くんの打ち上げというミッションのときに、安全な飛行ができるかどうかかなり疑問だ。
実際にやってみたら運任せになるという気しかしない。
たまは喜んでいたようだけど、ゴジはすぐにその事に気がついたらしくて浮かない表情。私もだ。叡一くんもたまと一緒に楽しそうにしている。叡一くんは、自分がこのロケットに乗せられる想定ということをわかっているんだろうか。ちょっと聞きだしてみるか。
私が微妙な顔をしていると、ぞっちゃんがカメラを向けてきた。
「どうしたの佐々也ちゃん。打ち上げ成功して嬉しくない?」
「打ち上げた後、まっすぐ上がってパラシュートが開くはずだったんだ。それがどっちも失敗だったからね……」
「えー。安積さんってば、厳しいなぁ」
「あ、安積さん? ……あ、撮ってるからか。それにしてもぞっちゃんに安積さんって呼ばれるとむずむずするよ」
「私のことをぞっちゃんって呼ぶのはさーちゃんだけなんだけどね」
「え? そうなの? ユカちゃんとかも『ぞ』って呼ぶじゃん」
「一文字だもんね。まぁ、それはそれで優花子ちゃん一人だけだよ。さーちゃんも、私のこともみーちゃんって呼ばない?」
「昔っからずっとぞっちゃんだから、変えるとなんか違う人みたいになっちゃうよ」
そんなことを喋りながら、私がロケットに厳しいことをちょっとごまかす。ロケットの目的、次以降に何をするのかっていうのは、いまのところカメラに向かって言ってもいいのかどうかわからない。
「そうだ、枝松さん……」
「枝松さん?」
ぞっちゃんに合わせて私が苗字で呼び返してみたら、ぞっちゃんはキョトンとしている。
「ぞっちゃんが私のこと苗字で呼ぶから!」
「あ、ああ、そういうことね、急だからびっくりして変な声出ちゃったよ、どうしよ」
「こういうのって、編集して後で消したりできるんでしょ?」
「まぁ、やろうと思えばできるけど……。それにしても呼び方を変えるのが急すぎるよ、さーちゃん」
ぞっちゃんは笑いながら返事をしてくれた。
自分だって唐突だったじゃんか。それに、消せるなら良いでしょうに。
「それで枝松さん。このロケットは試作だから、反省点があるならちゃんと洗い出さないといけないんですよ。神指クンも篠田クンも、そうだよね?」
「うん……。重く受け止めてる……」
「佐々也ちゃんは厳しいなぁ。それでもやっぱりロケットを打ち上げられたのは嬉しいよ」
ゴジは暗い顔つきをしているけど、たまは明るい顔で返してきた。
「叡一くんはどうだった?」
「面白いものを見せてもらったと思ってるよ。目に見えるぐらいの火炎を噴射して推進する姿に、原初の噴気推進の姿を見出して大きな感銘を受けたよ」




