7月11日(月) 17:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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7月11日(月)
17:30
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発射準備だというタイミングでぞっちゃんがその場のみんなに声を掛けた。
「ねえみんな、実際に発射をする前に写真撮ろうよ」
「ああそう言えばそうだ。僕も写真撮らなきゃ」
呼びかけを受けて、ゴジが校庭の発射台に設置されたロケットに端末のレンズを向けて、思い出したように写真を撮り始める。
私は作業中に時々写真を撮ってたからもういいけど、なんとなく便乗して写真を撮ってるゴジを撮影しているぞっちゃんの写真を撮ったりしてみた。
「ごめん。もうちょいしたら場所替わるから、枝松はもうちょっと待ってて」
「違うよ。ロケットの写真じゃなくて、みんなの記念写真。撮ろうよ!」
「えー、動画撮ってるんでしょ? スクショでいいんじゃないの?」
「そう言うなって。こういうのは写真で撮るとまた違うもんなんだよ。叡一くんも佐々也ちゃんも一緒に、並んで写真撮ろっか」
ゴジがめんどくさがってるところを、たまが上手く流れを作った。
どちらかと言えば私もめんどくさいと思う方なんだけど、ぞっちゃんがこういう時に写真を撮りたがるのはよく知ってるし、付き合って一緒に写ったことも一再ではない。
ここは私が一肌脱ぎますか。
「あー。じゃあ、みんな並びなよ。私がシャッター押すからさ」
「え? 三脚あるから、遠隔で撮れるよ?」
「三脚? ずいぶん本格的なんだね?」
「んーん。別に本格的じゃないよ?」
ぞっちゃんはそう言うと、君その服のどこにポケットついてんだ? という感じで脇腹あたりから掌より少し大きいくらいのクリップ式三脚を取り出した。
発射台の入っていた小さい方の箱を「この箱借りるね」と言って運んでいき、その辺の地面置いて三脚と携端を設置する。
三脚の角度をおおよそ調整して、携端でなにかのアプリを起動。
「じゃあ、佐々也ちゃんの携端のリモプレのビデオ通話で私のにつなげて」
「え? リモプレ? ……はい」
私は言われたままにぞっちゃんの携端にリモプレをつなげる。
リモプレの画面には、カメラで写してるだろう視野が表示されている。普通ならばインカメラで本人の映像が映るはずだ。
「え? こんなんできるの? すごいね」
「アプリアプリ。ちょっと借りていい?」
「いいけど……。なにすんの?」
すっと差し出されたぞっちゃんの手に、私は自分の携端を渡す。
「字チャでコマンド送るとカメラの操作ができるんだー」
「リモプレにそんな機能あった?」
「アプリアプリ。字チャ監視して携端操作すんの」
「それはセキュリティー違反じゃないの?」
ゴジが非常にもっともな疑問を口にする。
確かにそのタイプの操作ができると、リモプレから端末の乗っ取りができてしまうはずだ。
「そうだよー。だから非公式アプリ。危ないから権限もカメラだけにしてるんだー」
ぞっちゃんも可愛くさらっと割ととんでもない返事をしている。
いやぁ、ぞっちゃんってこういうのにそんなに強かったっけ? 必要に応じてってやつかな?
「じゃあ撮るよ。カウントダウンするからね」
ぞっちゃんが私の端末を使って私の知らない操作をしてからカウントダウン。
「はい、さん、にー、いち。んっ」
カウントダウンの最後のところ、ぞっちゃんは顔を作ってるからなのか言葉にならずへんなうめき声になる。写真が取れたのかどうか、よくわからない。
ぞっちゃんが私の端末を確認して、「はいおっけー」と合図をするまでなんとなく記念写真の構えのままで居てしまう。
後で見せてもらったけど、割といい写真だった。
それから、実はカウントダウンの十秒前とオッケーの十秒後の写真も密かに撮っていたらしくて、その写真も面白かった。なにか特別なことをしているとか、変な顔をしているとかではないけど、なんとなくその場の空気が伝わってくる。
面白いことするんだね、とぞっちゃんに言ったら「ストリーマーは面白い映像を作るのに色々テクニックがあるんだよ」と笑っていた。「でも、女の子相手にやると、けっこう怒られちゃうんだけどね」だって。
私も女の子なんだけど、なんで怒るのかわからない、と聞いてみたらぞっちゃんはまた笑っていた。「私、佐々也ちゃんのこと好き」だって。
ぞっちゃんの言うことは本当に時々わからない。
でも悪いやつじゃないし、こういう好意も本当に思ってることを言ってくれてるってことだっていうのは知ってる。私が私のような人間であるように、ぞっちゃんもぞっちゃんのような人間だ。
言葉がすれ違ってしまう場合があっても、私とぞっちゃんはお互いの好意で繋がってるんだと思えば、すごく良いことだと思う。




