7月11日(月) 15:30〜16:15
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第七章 裏山ロケット、長柄のマチェーテ。
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「ぞっちゃん、どうしたの? 記録映像?」
「ロケット打ち上げるんだって聞いたから、私のストリームで流させてもらおうと思って」
「あ、そういうやつ? ぞっちゃんの番組、久しぶりじゃない?」
到着。普通の声量で会話ができる距離になった。
「でもストリームって、ゴジもたまも叡一くんも問題ないの?」
「魁くんと叡一くんは良いって。ゴジくんと佐々也ちゃんは?」
「え? 僕も別にいいけど……」
きょとんとした顔でゴジが答えている。
おい簡単に言うなぁ、ゴジ。
このロケットは試作で、次の工程とかでゴジが能力使ったりハルカちゃんにプログラム作ってもらったりする予定だろうに。本当に誰に見せても大丈夫な内容ばっかりなのか、それは。
「え……あっと……」
私は答えあぐねながらゴジに対して目配せをしてみたけど、ゴジは気がつく様子がない。
まぁそうだよな。メッセージの複雑さに比べて伝達手段が貧弱すぎた。
仕方がないので私が代わりに釘を刺しておくことにしようと思う。
これはゴジとたまの計画だから、私が差し出がましい口を利くのはちょっと嫌なんだけど。
「えーと、今日のロケットは試作なんだけど、今日は良いよ。また別の日の撮影をするなら、その度に了解を取るようにして?」
「うん、わかった。でもなんだか珍しいね、佐々也ちゃんがそんなこと気にするって」
「珍しいかな? 珍しいかもね」
確かに、私はその時に気になること以外はなにごとにも無頓着な方かもしれない。今回のことも、気になるから条件をつけてるわけだけど、ぞっちゃんは私がなにを気にしてるか知らないもんな。ぞっちゃんはそういうところに敏いから、私が今ぞっちゃんの知らないなにかの事情を気にしている、ということに気がついたのかもしれない。
私とぞっちゃんがそんな話をしていると、ゴジとたまはロケットの荷物を運んで校庭の方へ歩いていく。叡一くんは先に行ったらしくて校庭で待っている。
ぞっちゃんは歩く二人の後ろ姿と待ち受ける叡一くんをカメラに収めている。
私も違うしぞっちゃん自身はそういうタイプじゃないんだけど、人気者の男の子が誰かと二人で並んで歩いてるのを見るだけで喜ぶ子というのは居て、たまは間違いなく喜ばれる側の人だ。ゴジはそうでもないはずだけど、邪魔にされるほどでもないはず。
やりますなあ。
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7月11日(月)
16:15
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教室にロケットの梱包を持ち込んで、ロケットの組み立て。
説明書を見ながら、書いてある通りに出来合いのキットを組み立てていくことになる。
説明書によると、なんでもこのキットは液体燃料ロケットというもので、燃料を入れ直すことで再利用できるのだそうだ。
……乗り物というのは普通はそうなんじゃないだろうか。
という疑問をポロッとこぼしたら、ゴジが解説してくれた。液体燃料以外だと固体燃料ロケットというものもあって、そちらは燃料の入れ替えができず、市販のものはエンジンが使い切りなのだそうだ。
「エンジンが使い切り?」
「要するに花火なんだよ。火薬を詰めて炎が出る方向を一定に決めると、そっちに炎が出て飛んでいく。ロケットっていうのは、その噴射のことだからね。ロケット花火とか」
「固体は入れ替えられないの? ……いや、難しいのは教えてもらわなくても分かるけど」
噴出する方向を決めるとそっちに飛んでいくというのは、言うほど簡単なことではないはずだ。いやまあ、どっちかに向けるだけならそんなに難しくはないのかもしれないけど、まっすぐ安定して飛ばさないとロケットとしては困るわけだから、材料とか盛り付け(盛り付け?)とかが偏ったりしてはいけないんだろう。
「液体燃料っていうのはそれがやりやすいの?」
「固体はその場で燃えるけど、液体は燃やすところに持ってこれるからやりやすいし、再利用もしやすい」
「あ、燃えてるところがそもそも違うってことは、粒々の燃料を流し込むとかじゃなくて、固体はその場から動かないってこと? それは再利用は難しいね」




