7月7日(木)
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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7月7日(木)
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今日は七夕だけど、別にだからといって学校で特別な行事なんかはなかった。
分校舎でも小学生の教室に行くと、短冊なんかが飾ってあったりもするのだけど。
特別なことはなかったけど、普通にありそうなこととしては、土曜日のクラス会の予定が本決まりになったという話をぞっちゃんから聞いた。
なんというか、ハルカちゃんのホストみたいなことになっている私の立場上、こういう時には幹事側に回らなきゃいけないかもという気もするんだけど、別にそんなことはなく、会場とか段取りとかは下の町のクラスメイトたちが手配してくれているんだそうだ。
私としては、せめてお礼ぐらいは言ったほうが良いような気がしている。
なんだかぞっちゃんがその段取りに一枚噛んでるようなことを言ってたけど、本人に聞くと「私はなんにもしてないよー」だそうで。
こうなってくると話が難しすぎて私にはよくわからなくなってしまう。
手間のかかることをしてくれてありがとうとお礼を言いたいだけだから、下手人を突き止める勢いで追求する必要はない。というか、純粋に誰がやってくれたのかは気にはなるんだけど、私は人間関係のなかでふわっと決まっていくプロセスを理解するのがとても下手なので、深堀りをすると無闇に乱暴な感じになってしまう。
気にはなるけど、追求するメリットがあまりにも小さく、デメリットは大きい。
しかも、こういうときは適当に返事をしても、話を聞いていないといって怒られることもあまりない。
「あっ、ふーん」
みたいな無意味な発言をしてその場を取り繕ろうのが、場面に一番合ったやりとりらしい。
でも今回は違った。
「よしよし、佐々也ちゃんは可愛いね」
とぞっちゃんにあやされてしまった。怒られてるわけじゃないからまぁいいけど。
ほんとにぞっちゃんの言うことはわけわからん。
でも、世の中的にはぞっちゃんの方が話が通じやすいんだよな……。
私がどこかおかしいんだろう……。
自分の欠点は分かりにくいと聞くし。
「今回の幹事はまりーとチハたんだから、佐々也ちゃんがお礼言ってたって伝えとくね」
安達さんと笹原さん。どっちもぞっちゃんの仲良しだ。
まあ、ぞっちゃんと仲が悪い子なんて居ないんだけど、グループ的な感じで結び付きが強いというか。
「うん。なんか悪いね。ありがとう」
「悪くないよ。普通におしゃべりしてる時に話すだけだもん」
「そう……」
ぞっちゃんはにこにこしてるけど、私はなんか収まりが悪い。
ぞっちゃんと話してると、時々こういうことになる。
この収まりの悪さが、私と世の中全般との距離なんだろうなぁ……。
* * *
あとTOXの予報が出た。
五日後の十二日予報。東京だそうだ。
携端で世間の反応を見てみると、「こんなに短い時間でまた東京か」とか言われたりしている。「この前の警告は厳密には東京じゃなかったから、また改めて東京なのでは」という声もあった。
まあね、実際ここは東京ではない。
TOXは世界全体の関心事だから、なんとなく感想を言っているような人たちのほとんどは折瀬と東京の違いなんてわからないんだろう。私だってケルンとルクセンブルクの違いなんて知らない。あえて調べてみて、国が違うけど、ヨーロッパ統合体では国の概念も日本と違うんじゃないかみたいなことを知ったぐらいだ。距離が遠いというそれだけで、理解というのはぼやけてしまう。
私は、叡一くんが言ったとおりになった、という事に納得するのと驚くのと、両方だった。
中一回ぐらいの短いスパンで同じ範囲が予報に入るのはそもそも珍しいことだ。珍しいのだけど、東京というのが特別にTOXが呼び寄せられやすい珍しい場所であるせいで、同じ範囲に予報が出ていることの珍しさが見過ごされてしまっているように思う。
珍しいのに予報が出たということは、予言が当たりかけているということでもある。
そしてまた折瀬に来るとしたら、ユカちゃんが言ってた要因があるということになるのだから、また次もあるのだろう。
昨日まではぼんやりとした可能性の話であってどうせまたTOXが来るわけなんてないと思ってたけど、予報が出たせいでそれがもうすこし具体的な起こりうる自体に変化した。
だとしたら、私は幹侍郎ちゃんのためになにかをしないといけないのではないか。
なにができるのか。




