……7月6日(水) 18:15
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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「ただいまー。ユカちゃんと話してきたよ!」
「あっ、佐々也!」
「佐々也ちゃん……。優花子、なんか言ってた?」
後ろから声をかけると、ゴジはなんとなく後ろめたそうな顔をしていた。窓ちゃんは別にそうでもない。どちらかといえばニコニコして嬉しそうだ。
「ユカちゃんだけが知ってることってのは別に無いみたいだったよ。ただ、やっぱり繰り返しTOXがこの集落に来るなら、幹侍郎ちゃんが見つかるリスクは高いと思ってるみたいだった。ユカちゃんも捜査側になるはずだってさ。でも、ゴジには朗報だけど、手柄が欲しくて幹侍郎ちゃんをタレ込んだりする考えはなさそうだったね」
非常に正確な要約だと思うけど、聞いたゴジはなんだか嫌そうな顔をしている。
「別にそんなこと心配してないから……」
「あとは……。逃げるにしたってどこに行くんだって言ってたよ。たぶん東京って答えといた」
「幹侍郎を一人で東京になんて行かせられないよ!」
「うん。ユカちゃんもそれを心配してたから、ゴジも一緒に行くって言っといた」
「勝手に話を進めるなよな……」
「進めてないよ。もしかしての話。でも、確かに、逃げるって言っても逃げた先にアテがあるわけじゃないと厳しいよね。ずーっとになってしまうわけだし」
「そうだよ。だから逃げるというか、この場所を離れるなんて非現実的なんだよ。幹侍郎が寝泊まりできる場所がどこかに有るわけじゃないんだから。キャンプとか、小旅行の感覚でも一緒には出掛けられないんだよ」
ゴジはちょっと怒ってるみたいだ。
まぁ、私が無神経なことを言ったから仕方ない。むしろ否定的で建設的じゃない意見だとしても、ゴジがいちおう幹侍郎ちゃんと一緒にどこかに行くようなこともけっこう真面目に考えているんだということを知ることができた。
でもやっぱり幹侍郎ちゃんのことは課題が多いな……。
「それで、窓ちゃんは、ゴジからなにかもらうの?」
「うん。あのね、武器」
「ぶき?」
ぶきって武器のことだろうか?
ちょっと他に思いつかないけど、発音だけだと漢字でどう書くやつのことかわからないから、もしかしたら違うかもしれない。
「うん。マチェーテ」
「マチェーテ……」
やっぱり武器か。
マチェーテ……。日本語にすると蛮刀ってやつだ。山歩きをするストリーム動画で見たことがある。
日本語だと刀という文字が入る言葉になるけど、日本刀のような反り身の刃で斬りつける武器と言うより、片刃ではあるものの重心が先端に近い方にある振り回して使う刃物。武器寄りの鉈というか、道具としては武器そのものというより枝打ちに使う巨大なナイフというか、薪割の鉈の長いやつというか、結局は鉈か。要は刀っぽい形の鉈だ。
でも武器って呼んでるから、戦うのに使うんだろうか……。
鉈とはまた殺意が高いと言うか、運動エネルギーを威力に変換する工夫が仕込まれた形なので、見た感じから迫力があるんだよね……。
「それをゴジがくれるの? ゴジそんなもん持ってるの?」
「ううん。能力で作ってくれるって……」
「マチェーテって機械じゃないよね?」
「ああ、うん。だから機械っぽい仕掛けを仕込むことにしたんだ」
私の疑問にゴジが答える。
「仕掛け?」
「うん。伸びる棒にマチェーテをくっつける仕組みにするよ」
「組み立て式ってだけで、機械かなそれ?」
「違うかな? もし対応外だったら、いざとなったら懐中電灯でも仕込むよ」
「え……、そういう感じ? 欺瞞では?」
「もうすでに電灯のフリして地下通路とか作ってるから、それぐらいの応用は利くんだよ」
「なるほど……」
説得力があるのかどうなのか。ゴジがやっちゃってできるんならそれで良いんだけど、能力の限界が物理法則とかじゃなくてゴジの認識で変わるってのもだいぶおかしな感じがする。文句があるとか正常化してほしいとかじゃなくて、辻褄が合わない釈然としなさであって、私の感じ方の問題ではあるんだけど。
しかし武器かぁ……。
ゴジの能力どうこうは置いておいても、法律的にそういうのって大丈夫なんだろうか……。
でも窓ちゃんが欲しいって言うなら、法律よりそっちのほうが重要な気もする。窓ちゃんは戦う人だから良い武器があると勝ちやすくなるんだろうし、ひいては安全でもあるんだろうと思う。それなら仕方ない気もするなぁ……。




