……7月6日(水) 15:55
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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分かれ道で大回りから離れる方は山の方に入り込んで行って、別の山にある隣町の方に続いている。隣町への抜け道ということは行き来も盛んで交通量の多い道なのかと言うとそんなことはなく、折瀬に用がある人というのは住人のお客さんぐらいしか居ないので、基本的には高速道路へ行く通り道として利用されている感じだ。
いつも眺めている分かれ道について益体もないことを考えながら、橋の脇に作られた比較的新しくてきれいな階段を降りて、川原の土手の上へ。土手の上の整備された小道を川沿いにまっすぐ緩やかに下ればこのまえハルカちゃんと話した親水公園。土手に切られたいつ作ったのかもわからない古い石垣の、坂道と階段の中間ぐらいの小道というか獣道というか――獣は階段を使わないかもしれないけど――とにかく自然と舗装道路の中間のうちでも自然側にだいぶ近いところにあるそういう道を下りると、特に整備されているわけではない橋の下へ。
そこにはすでにユカちゃんが居た。
今日は薄い緑の綿パンに薄水色の千鳥格子の半袖のシャツ。こざっぱりしたお姉さんみたいな服だ。多分、動きやすい服装なんだろう。
私はいつもどおりTシャツとハーフ丈のカーゴパンツだ。
「よっ、ユカちゃん」
「佐々也……、来たわね」
微妙にうつむいたまま、横目でユカちゃんが応じた。
なんだよ、怖いな。
敵かよ。
「で、話って?」
「あ、その前にそっち行っていい? 私も日陰に入りたい」
「別に来ればいいじゃない」
だから怖いってば。
「じゃあちょっとお邪魔して。……いや、今日も暑いね」
そうでもないけど、ここは話しの枕としてこんな事を言ってみる。
「別に言うほど暑くもないけど? そんなことより、話があるんでしょ?」
「あ、そう? えへへ。じゃあ核心から話すね。叡一くんから聞いたんだけど、次のTOXがまたここに来るんだって」
「はぁ? なんで叡一くんがそんなこと……、知っててもおかしくないか……」
「あれ、ユカちゃんも叡一くんがTOXに詳しいって知ってるの?」
そういえば叡一くんが防衛隊で働いてるユカちゃんに会ったようなことを言っていたかも。
「まぁね……。このあいだのTOXの時に山の中のどの辺りにTOXが居るのか防衛隊に教えに来てくれた」
「えっ、そんなことまでできるのか……。できそうだな……」
「むしろ佐々也は叡一くんのなにを知ってるのよ」
「私は、叡一くんがゴジの家の庭にTOX戦闘跡を見に来たのを見つけて立ち話したんだよ。それでコンプレキシティとTOXに関係があるんじゃないかという話を聞いた」
「コンプレキシティ? 興味深いわね……。私も聞きたい」
「それは本人に聞いて。私はユカちゃんに説明できるほど理解したわけじゃないから。その時には叡一くんの個人的な仮説だみたいなことは言ってたよ。けど、本人は信憑性が高いとは思ってるみたい」
「叡一くんは学者かなんかなの?」
「学者は別に居るって言ってたなぁ。わからないことがあったら確かめてみたい気持ちはわかるから、私は叡一くんが学者じゃなくても不自然とは思わなかった」
「あんたはそうかもね……。それで?」
「まぁ、お知らせする内容はこれだけ。あとは相談」
「だけって……叡一くんが、この集落にまたTOXが来るって言ってたってだけ?」
ユカちゃんの声が、信じられない、みたいな調子で若干音量を上げた。
「そうだよ。大事だと思うけどね」
「TOXの到着地点の予想をする人はいくらでも居るんだよ? あんたがこの前散々馬鹿にしてた、それこそイルカの予言そのものじゃない」
「ほんとだ!」
ユカちゃんに言われてやっと気がついた。
いやまぁイルカというより叡一くんなんだけど。
「でも、叡一くんならイルカだから特別かもしれないってことか……」
「それと、別に頼みもしないのに私に教えてくれたことね」
「佐々也にねぇ……。TOXにまで家に訪ねて来られて、あんたなにか人外に好かれる素質が有るんじゃない?」
「人外って……」
言われてみれば、ハルカちゃん、幹侍郎ちゃん、叡一くんと、確かに人間じゃない人から好かれやすいかもしれないという気はしないでもないけど、人外って言い方はちょっと……。
うーん、でも、他に言葉もないか……。
「人外で悪かったら、非人類知性とかね。そもそも、あんたは不自然だと思わないの?」
「こうして改めて並べられるとなんでだろって気分にはなるけど、芋づる式になんとなくってだけだと思ってるよ。私、特になにもしてないから、偶然立ち会っただけでしょ。私よりゴジの方が本人の能力に関係有ると思う」




