7月6日(水) 13:00〜15:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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「……写真ある?」
黒い壁に囲まれた中で、完成品の白いロケットが立っている写真。比較のためなのか、近くにはシュッとした金属製の会議用の机椅子とノートパソコンが置いてある。ライトの関係でロケットが淡い光を放っているような体裁になっていて、なんか気の利いたインテリアみたいだ。
「お、かっこいいねぇ。一メートルって、こうして見ると意外と長いんだね。机の天板よりだいぶ高いや」
「飛んでるところの写真もあるよ?」
そういって、ゴジとたまは色々と写真を見せてくれた。
ロケットを飛ばすのがすごく楽しみらしい。
こうして見せられると、わたしも楽しみになってきた。まぁ私は例によって手先も不器用だから、作るときの助けにはならないだろうとは思うんだけど。
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7月6日(水)
15:30
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授業が終わり、下の学校のみんなは帰る支度をしている。
授業には個人アカウントじゃないと出席できないから、午後もハルカちゃんと二人で授業を受けていた。ホームルームの途中ぐらいで携端をハルカちゃんに預けて、私はまたゲストでログインして準備をしておく。
ホームルームも終わって、人の少ない時を見計らい、私は公共メッセの通話でユカちゃんに話しかけた。
「ユカちゃん! ちょっと話があるんだけど」
「話? なに? 聞くけど」
「学校のリモプレではちょっと……。ゴジの家はあれだし、どこかで会える?」
「じゃあ、うち来る?」
「ユカちゃんち、お母さん居るでしょ?」
「そりゃ居るよね。デスクワーカーなんだから」
「あ、込み入った話になるからダイメの通話に切り替えるね」
公共でそう伝えて、ユカちゃんにダイレクトメッセでチャット招待を飛ばす。
まあ操作上はタブが切り替わるだけだけど。
「秘密の話だから、できれば近くに人が居ないほうがいいんだ」
「は? まさか、……あの子の話なら、私は聞かないよ」
「違う違う。また別の話。もしかしたら、窓ちゃんから聞いてるかもしれないけど」
「窓から!? ……いや、なにも聞いてないんだけど」
ユカちゃんは画面の向こうで苦虫を噛み潰したみたいな顔をしている。
「あんた……、まだ他に隠してることがあるんじゃないでしょうね?」
「隠してるわけじゃないんだよ。大っぴらに言えないだけでできるだけ隠したくないし、最近は秘密の方が私に近づいてくるの! もう! ……私は人を騙したりとか隠し事をしたりなんて向いてるような性格じゃないのに……」
「はぁ!?」
私が不平を口に出すと、ユカちゃんは驚いた様子で声を上げる。
「え? 私、ユカちゃんになにか隠し事とかしたっけ?」
「嘘はさんざんついてるでしょ! 子供の頃からどれだけあんたに騙されたことか」
「ノーノー! ああいうのはフィクション。フィクションと嘘は違うんだよユカちゃん」
「騙されてる方にとっては変わらないんだよっ!」
「ま、まぁ、その話は置いておこう。嘘とかフィクションじゃなくて話があるから、どこか人の居ないところで会おう」
「……宗教とかに勧誘されそう」
「そんなことしないよ! いままでに私がユカちゃんを騙したことがあった!?」
「何度もあったって、いま話してたところでしょ!」
「そ……そうだった……。いや、騙したりしないよ。ユカちゃんにも話しといたほうが良いと思う秘密の話があるんだよ。ほんとだよ、信じてよー」
「言えば言うほど嘘っぽいんだよなぁ……。まぁでもいいわ、昨日もなんか秘密があるようなこと言ってたし」
「そうそう! それ! その話!」
「そうなの? じゃあ、ぞも呼ぶ?」
「ぞっちゃんはあんまり関係ないから……」
「つまり、私にはなにか関係あるって言いたいわけね。うへぇ、止めてよね」
「……関係、という言葉によるね。ユカちゃん自身には関係ないけど、ユカちゃんが関係してること的に、知っておいたほうがいいと思うんだよ。それに、ユカちゃんのアドバイスも聞きたいし」
こう説得する私に向けるユカちゃんの目が何故か冷たい。
「……いつもの佐々也はなんか変って感じだけど、今日の佐々也はなんかうさんくさい」
「あんた……ユカちゃん……。相変わらず口がわるいよね……」
「こういう性格なんだよ」
「そうだね」
知ってた。でも、ユカちゃんは口は悪いけど友達思いなところもあるんですよ。
「佐々也だって好き放題言うでしょ」
「それもそうだ。正直すぎる場合があることは認識してる」
「言葉を飾るんじゃない。考え無しで思ったまま口に出してるだけなんだから」
「そう。だから隠し事も嘘も苦手なんだよな……」
「そこに戻るの? もう付き合ってられない。わかった。人の居ないところがいいなら、大回りの橋にしよう。あそこなら川原に降りれるし、橋の下が日陰になってるから」
「上を通った人に話が聞こえないかな?」
「無理でしょ。大声で話すわけでもないんだから」
「そうだね……。じゃあそこにしよう。四時ね」
「待ってるから。早く来なよ」
来る? その言い回しで正しいのか? と思ったけど、大回りの橋はどちらかといえばユカちゃんと窓ちゃんの家からの方が近いので、確かに私がそこに向かうという感じではあるのか。




