7月6日(水) 13:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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7月6日(水)
13:00
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水曜。
授業はテレプレ。
休み時間なので学校用の携端はハルカちゃんに貸してしまい、私はフレームアウトする。しなくてもいいんだけど、みんなはせっかくハルカちゃんと話したいのに私がいつも一緒にいるのもどことなく気詰まりだろうとも思うし、あんまり興味のない話題も多いし。
ハルカちゃんは日に日にクラスの女子の人気者になっていく。
抜群の美少女なのもあると思うけど、沢山の人と喋るのが上手いというか、会話の流れの中でなにかを言って注目を集めて次に流していくみたいなことが上手いのかもしれない。私では考えつかないぐらい人の輪に上手く溶け込んでいる。
私だってみんなの話に混ざる事自体は楽しいから好きなんだけど、どうも上手く全体の会話の一員というのになれる気がしない。個別の話題が気になって流れについていけない、みたいなところがある。なんかみんな別の話してない? さっきの話しようよ、みたいな。
ゴジとたまはまたロケットの話をしている。叡一くんは今日はこの話には居ない。叡一くんも人気者なので、他所で誰かと雑談をしているみたいだ。
私は自分の自宅用の携端で学校のリモプレの公共チャンネルにゲストで接続して、今日はこの話に混ざることができた。昨日までは別のことがあったからなぁ。
「一機目の試作はいつにする?」
試作なんてするのか……。すごいな。本格的だ。
「え? それは届いたらすぐ作ったらいいのに。ロケットなんて今まで作ったこと無いんだから、やってみないとどんな感じになるかわからないんじゃないの?」
「あ、佐々也ちゃん、急に混ざってきたね。興味ある?」
たまがそう言って歓迎してくれた。
「最初に聞いた時からずっと興味あったけど、他の事してたから混ざれなかったんだ。作るときは私も見に行って良い?」
「もちろんだよ。来て来て。いいよな、護治郎?」
「良いも悪いも最初から佐々也は来ると思ってたから」
「うん、見に行く。それで、ロケットはいつ届くの?」
「配送は週明けだって言ってたから、月曜日じゃないかな」
「作るのに必要な工具とかはある?」
「キットに付いてくるってさ」
「どこでやるの?」
「学校の校庭だよ。広い場所が必要だから」
「先生の許可はとった?」
「魁が言ったよ」
立て続けに質問をしたら、ゴジが次々答えてくれる。
たまの方を見ると、うん、と頷いてる。
「昨日ね」
「そっか……」
乗り遅れちゃったからなのか、ロケットの話にどう食い込んでいけば良いのかよくわからない。すごい些末なことばっかり聞いてしまったような気がする。
「なんだよ佐々也ちゃん。なんか、心配が多くてらしくないぞ」
私が心配すると、らしくないのか……。
そうかもしれない。確かに視野狭窄でドジを踏む方の人間だ、私は。
「いやー、話題に乗り遅れちゃってるから、なにか言うことないかと思って」
「ああ、そっか。いままで話に居なかったもんね」
「面白そうな話ししてると思ってずっと気になってたんだよ。でも話に混ざれるタイミングがなくて」
「まだ始まったばっかりだから、佐々也ちゃんも一緒に話そうよ」
「うん」
「大まかな流れとしては、試作一号を作って、大きさとか形とか発射方法なんかの練習をする。それからくっつける機械を作って、その後でまたロケットを三個注文して……みたいな感じかな?」
「ふんふん。ねぇそのロケットって、大きさどれぐらいなの?」
「長さ一メートルだって。太さは五センチ」
五センチと言えば手のひらの半分もない。一メートルと言えばけっこう長い。
具体的に思い浮かべてみた。
「棒だね」
「ロケットって細長いものじゃないか?」
「なんか漠然としたイメージよりだいぶ細長い感じだから……」
「写真を見せてもらったけど、確かに細長かったよ。でも、直径五センチって実際に持ってみると意外と太いんだ。僕が持ってやっと指が回るぐらい。それに先端とか尾翼とかがついてるとやっぱりロケットの形には見えるもんだよ」
え? そんなに?
指が回る、つまり棒の断面の円周だから、2πr。
rは半径だから直径の半分で二・五センチで、三・一四と二を掛け……。
ああ、2rつまり二倍の半径ということは、直径にπを掛けたらいいのか……。
つまり一五・五センチあまり。確かに、まっすぐ掴んで指が回るかどうかぐらいだ。
確かに思ってたより太いのかも。
「……写真ある?」
「あるよ、これ」
ゴジがカメラに端末を近づけて、端末に表示した写真を見せてくれる。
黒い壁に囲まれた中で、完成品の白いロケットが立っている写真。比較のためなのか、近くにはシュッとした金属製の会議用の机椅子とノートパソコンが置いてある。ライトの関係でロケットが淡い光を放っているような体裁になっていて、なんか気の利いたインテリアみたいだ。




