7月5日(火) 15:52
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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7月5日(火)
15:52
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夢中になって話しているうちに、いつのまにか神指邸に帰り着いていた。
ゴジは階段側の道が好きらしくて、一緒のときはいつもこっちを通る。大回りからの分かれ道、自分の家の前でどっちに行くのか分からないようなちょっと不思議な気分になったけど、いまはゴジの家に住んでいることを改めて思い出してついて来たんだった。
というのを、玄関口で思い出す。
歩いてきた道のりは全て記憶にあるけど、あまりにも話をするのに夢中だったらしく、ほとんど自動的に歩いていた様子で、はっと気がついたらいつの間にか玄関口だった。
私もゴジに話があるのだ。
すぐ後に一緒に幹侍郎ちゃんに会いに行くけど、その前に話だけでも伝えておきたい。
「ねぇゴジ、その叡一くんなんだけど、さっき悪い話を聞かされちゃってさ……」
玄関を上がって、吹き抜けになった玄関ホールで、自分の空間に去っていこうとするゴジを引き止めた。
「悪い話?」
「悪い……と思うんだけど。その、さっき学校にいる時にケルンのTOXのニュースがあったでしょ? その時に言われたんだけど、叡一くんによるとTOXがまた折瀬に来るそうだよ」
「え?」
「また来る!? ……でも、なんでそんなことが分かるの?」
呼び止められたゴジがぼやけた反応をする。一方で、先に上がっていたハルカちゃんがこの話に食いついてきた。
ハルカちゃんにはゴジと同じことを知られても差し支えはない。
「なんでって言われても、私は聞かされただけだからわからない。でも、叡一くんには確信があるみたいだったよ」
「確信ねぇ。なんで叡一くんにTOXが落ちてくるところが分かるのかな?」
「さぁ……イルカだからとかかな。そういえば、叡一くんはイルカとしても目が良いって言ってたし」
「あの時の話だと、TOXの落下する場所がわかるって話じゃなかったはずだけど……」
「そうだね。でも叡一くんはコンプレキシティとTOXの関係に興味があるようなことを言ってたから直接わからないとしても、なにかその辺の話に詳しいんだろうと思うよ。それ以上のことは、叡一くん本人に聞いてみたら良いと思う」
「私は叡一くんと相性が悪い気がするから、それはやめとく。佐々也ちゃんは好かれてるんだから、佐々也ちゃんが聞いてよ」
「え!? そうなの?」
と、その場に立ち会ってなかったせいでちょっと仲間はずれのようになっていたゴジが急に驚いた声を上げた。
「佐々也ちゃんと仲良くしたいらしいよ」
「宇宙に恋人がいるのに?」
ゴジはなにを急に言いだしたんだか……。
「そういう意味じゃないよ。叡一くんはコンプレキシティに興味があって、私はそれが強い? 多い? だっけ? なんかそのコンプレキシティがたくさんあるんだって。だから、私個人というよりそのコンプレキシティに興味があるってこと」
私がゴジに話したいのはこんなことじゃないんだけど……。
「コンプレキシティ……。あ、深山が言ってたやつか。叡一くんまでコンプレキシティの話をしてたの?」
「そう。私もびっくりしたけど、叡一くんはコンプレキシティがよく見えるんだってさ。で、コンプレキシティってなんなのか聞いてみたら、よく知らないって。見えてるからってそれがなにか、なんで言えるのかを知ってるわけじゃないってさ」
「コンプレキシティって目に見えるものなの?」
「その辺はなんか難しいんだ。私もよく理解してない。なんか見えるのに似てるっぽい感じみたいだったから私がそう思ってるだけ」
そもそも叡一くんとなんでコンプレキシティの話になったのかもよくわからない。叡一くん側には私と関わりたい理由にコンプレキシティに関するなにかがあるって話なだけで、私からは見えもしない。
例えるならなんだろう? 霊とかそういう話か。
君には強い守護霊がいる様子だから仲良くしたい、みたいな話になるんだろうか。だとすると、守護霊の強さとか、霊ってどうやって見るのとか、目で見えるものなのなんて私が聞かれてもわからないよな。
「なんかちょっと腹が立ってきたな」
「え? 急にどうした?」
「ああいや、自分が見えもしないなんて幽霊と変わらないようなものの説明を求められてるのかと思うとさ」
「それは……、悪かったね」
「ゴジには怒ってないよ。見えもしないコンプレキシティというものに対して、掴みどころがなくてイラついてるみたいな感じ。ゲームのさ、操作をミスって崖から落ちると、操作ミスが悪いのに崖の方にムカつくでしょ? あれと同じ」
「? 気を悪くしてないなら良かったよ。でも、そんな話だっけ……」
「ああ、そうだ、話が逸れ過ぎた。ええと、そもそも私が言いたかったのは、叡一くんが言う通りTOXがまた折瀬に来るとなると、またゴジの家が狙われるんじゃないかと思うんだよ。ええと、かもしれない、ぐらいだけど」




