7月5日(火) 15:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第六章 重さとは持ち上げる時に使う力。摩擦とは擦れ違いに抗う力。
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7月5日(火)
15:45
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だいたい二週間に一度の登校日、ハルカちゃんがショッピングモール買った私服を着て登校して人気ものになり、生身の叡一くんからTOXがまたくるという予言をされ、生身のぞっちゃんから秘密についてのコツを聞いた日。学校が終わって、ゴジとハルカちゃんと並んでの帰り道。
空は晴れていて陽射しはまだ高い。
折瀬は山間とはいえ直射日光に晒されればさすがに暑いんだけど、橋が近づくと川の雰囲気とささやかな涼気が漂ってくる。
ゴジとは子供の頃からよくこうして一緒に帰った。
もちろん、それぞれに学校帰りに何処かに遊びに行ったりとかもあったから絶対に一緒というわけではなかったし、ゴジが引きこもってる間はそもそもゴジが学校に来てないから一緒に帰ることは無かったけど、引きこもりをやめた半年前からまた当たり前のようにこうして帰ることが多い。
通っている学校が下の迂川郷の校舎で、部活なんかがあったらまた違ったのかもしれないけど、なにしろ分校舎には生徒が少なすぎて放課後の課外活動なんかも無いから、授業が終わったら帰るしかないのだし。
「魁が言ってたんだけど、叡一くんは宇宙に恋人を残してきてるんだってさ。言ってなかったっけ?」
「はぁ……」
唐突に聞こえるような内容だった。なんでロケットなのかという話をしてたはずなんだけど。ゴジが待ってる様子だったから、追加で聞かされたかどうかの回答をする。
「……叡一くんの恋人の話は初耳」
「それで、叡一くんを宇宙に返してあげたいって話になって……」
「う……うん?」
「空を飛べるってことは軽いんだから、ホビー用のロケットで宇宙に飛ばせないかってことになったから、昨日下見に行った」
「ああ、そういう話だったのか」
なんで急に叡一くんの恋人の話なのかと思ったら、ちゃんとロケットの話につながっていたのか。なんできゅうにロケットなのかと思ってたけど、それもわかった。そうすると、それはそれで疑問も思い浮かぶ。
「でも、ホビー用のロケットって小さいんじゃないの? 乗るところある?」
ホビー用のロケットのことなんて詳しくはないんだけど、積載荷重は小さいはず。積載荷重が小さいということは、本体も小さいということだし、本体が小さくて軽いからこそホビー用の少ない燃料で飛ばせるということになってるはずだ。
「乗るところは作るんだよ。叡一くんの体が軽いなら、椅子とかじゃなくてネットとかでもいいはずだからさ」
「ネットって網? 叡一くんを夏みかんみたいなネットの袋詰にして、ロケットに引っ張らせる感じ?」
軽ければネットで良い理屈もよくわからないけど、実際に思い浮かべてみると、もっと基本的な部分が気になった。
「でも、それだと噴射炎が直接当って危ないんじゃ……」
「それはちゃんと考えてるよ。ロケットを三つ三角形に並べて、その間に居場所を作るんだ」
「へ?」
もう一度、言われたことをイメージしようとしたけど、どうも上手く行かない。
「ロケットを……並べる? 三角形?」
「あ、えーとなんて言ったらいいのかな……。地面に一辺三メートルぐらいの三角形を書いてみて、そのそれぞれの頂点に縦向きにロケットを乗せる感じ。高さの辺を全部ロケットにした三角柱って言えばいいのかな……」
ああ、やっとわかった。
物理演算式のクラフト系のゲームなんかで、なにかをロケットで打ち上げるようなミッションが時折あったりする。例えば要救助者が乗り込んだ救助カプセルを崖の上に届けるため、その救助カプセルにロケットをくっつけたりするんだけど、バランスが良くないと上手く飛ばない。こういうときは、くっつける場所に気をつけて均等になるようにつけるようにするのが攻略法になるわけだ。
ロケットが三個の場合、正三角形になるようにクラフトすると思うんだけど、ゴジが言ってるのは要はその感じだろう。あえて言うなら救助カプセルに直接くっつけるタイプの解決じゃなくて、正三角形になるように予め作っておいて、あとからその三角形のロケットに救助カプセルを乗せるというタイプのやつだ。その場合は乗せるときの中心位置に改めて気をつける必要があるかもしれない。この場合は網を真ん中につけるんだろう。その手のゲームだと積荷はかなり揺れそうな気もする。
なんというか、かなり課題が多いように感じるけど、基本のコンセプトは理解できた。




