……7月5日(火) 13:15
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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「浮気もなにも、私とゴジは姉弟みたいなもんだって。私はともかく、ゴジに彼女でもできたらすぐわかるんだろうけど」
「窓ちゃんとか?」
「そうだね……。えっ?」
と思って改めてぞっちゃんの顔を見たら、これはわかってる顔だ。
「……気がついてたの?」
「窓ちゃん、わかりやすいもん。でも隠してるみたいだから探ってみてくれって言われちゃって」
「赤木さんに?」
「違うよ。誰から頼まれたのかは秘密。佐々也ちゃんなら二人とも仲いいから、聞かされてるかと思って」
「……。私も聞かされてないよ。窓ちゃんは秘密にしてるみたいだし、ゴジは気づいてないみたい」
「気づいてないって……、そんな事ある?」
「有るか無いかで言ったら有るんじゃないかな。そもそもそんな発想がないっていうか、そういうやつ」
ぞっちゃんは私の答えを聞くと、じっと私の顔を見てくる。
「……佐々也ちゃんが言うと説得力が違うなぁ」
説得力? なんの話だ?
ぞっちゃんはまた私の顔を見ている。
これは要するになにかを探っているというか、私の反応を見ているのだろう。
ぞっちゃんにはそういうところがある。思弁的なタイプでなくて観察的なタイプというか、物事の理解に於いて知識よりも他人の反応から正解に近づいてゆくタイプというか。
反応を見られる側としていい気がしないこともあるんだけど、一方でぞっちゃんは私が知らないことを知っていることが多かったり、私では気づかないことに気がついてたりもする。
私なんかはぞっちゃんみたいなやり方だと誰も知らないことは一生知ることができないんじゃないだろうかという気もしてしまうけど、世の中にはそういうことはおそらく意外と少ないはずだと思えば、取りこぼしが殆どない上に手早く正解にたどり着ける方法なのかもしれない。
まあ、私はこぼれちゃう方も気になっちゃうというか興味の対象があまりにもランダムというか、同じやり方ではやっていけない。でも、その分だけ非効率でもたもたしてるみたいなところがあるから、善し悪しなんだと思う。
ところで、いま私はぞっちゃんからなにを嗅ぎ取られてるんだろうねぇ……。
「佐々也ちゃんはね、そういうところある」
???
どういうところだかわからん。
おかしなやつみたいな事をけっこう頻繁に言われるんだけど、具体例を求めると〇〇みたいなところというふんわりとした回答が返ってくることが多くて分析的におかしい部分の説明が出てくることはない。私以外の人たちはそれで分かり合っているので、それなりに根拠があって他人に伝わる言葉ではあるのだろう。ただ、私はいつまで経ってもわからない。
返事のしようがないので、唸り声でも出しておくか。
「うーん……」
「……。でも、秘密って言っても一人で知ってるだけじゃなんにもならないんだから、関係ある人には早めに伝えたほうがいいと思うんだ〜。抱えてる時間が長いほど重くなっていくわけだし、何かあった時に一人だけ知っててもそこから説明するんじゃ遅いかもしれないし、良いことないと思う。……みんなに言えなくても、関係ある人だけに伝えるとか?」
あれ? 急に話が終わった?
言い終えてから、寄せていた顔を離してキラキラした目でぞっちゃんが私を見てくる。
お互いに秘密秘密と言いながら会話をしていたのに、なんだか核心を突いた助言が来た。
「ぞっちゃんは賢者だね。ありがとう。参考にするよ」
「ふふ」
いいってことよ、という感じでぞっちゃんが私の肩をポンポンと叩く。
ぞっちゃんが手を置いたまま数秒。
私にとっては天啓の瞬間から、すぐまたぞっちゃんの日常界に話題が飛ぶ。
「そういえば、天宮ちゃんと叡一くんの歓迎会の日、昨日の服着てくるの?」
「ハルカちゃんなら、昨日買った服着るはずだけど?」
まぁ、他に服持ってないから当然だよな。
ぞっちゃんはそんなこと知らないだろうから、あんまり余計なことは言わんとこ。
「佐々也ちゃんだよ。可愛い服着てるところ、わたしも見たい」
「私? 私はいつもの服だよ。昨日の着てた服は窓ちゃんの服だからさ……」
「窓の服がなんだって?」
声のした方を向いて顔を上げると、ユカちゃんと窓ちゃんが並んでいた。お手洗いから戻ってきて、私達に近寄ってきたみたいだ。
「仲良く内緒話してたじゃん?」
見てたのか……。
してみると、ぞっちゃんは二人が来たのに気がついて話を終えたんだな。




