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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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……7月5日(火)  12:30

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第五章 秘密とは隠して知らせる情報


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「次のTOX、またここに落ちてくるよ」

 言うだけ言って、叡一くんはしれっと去っていった。

 休憩中でスイッチが切れていた私はとっさに反応もできず、呆然と見送る。


 いちおうみんなを待っていたはずなんだけど、変な割り込みが入ってしまったので判断が混乱して、とりあえずお弁当のおにぎりを取り出して食べ始めてしまった。

 ふと気がつくと、みんな私に構わずに別に集まってお弁当を食べていた。見た目にわかるぐらい私がぼんやりしていて、声を掛けないでいてくれたんだろうと思う。それならそれでありがたい。

 時折、おかしなスイッチが入っているとすべての段取りが崩壊して、自力で持ち直す前に声を掛けられると悲しくもないのに涙が出てしまうようなこともある。悲しくて泣いているのとは違うから私としては恥ずかしいぐらいの話なんだけど、声を掛けた方はものすごい罪悪感を抱くらしい。私としても、話しかけて泣き出す人が居たら誤ってしまうと思う。だからこれは変な反応で涙を流す自分が悪いんだけど、ぼんやりしてなにもかも疎かになっている時の話だから気をつけるのも無理なことだ。だから、放って置いてもらうのが一番いい。みんな幼馴染だから、その辺のことをよく理解してくれていてありがたい。


 少し自我を取り直して、改めておにぎりを食べながら、叡一くんに言われたことを考える。

 その筋の事情通らしい叡一くんにTOXがまたこの集落に来ると予言されたことは、とても重い。と、思う。

 予言のTOXが来るか来ないかで言えば、たぶん来るだろう。

 いや違うか。来ないと想定する意味はほぼ無い、という感じか。来ないんだったら話はここで終わり。どちらかと言うとなんで叡一くんはそんなことを言ったのか、という問題だけになる。実際に話してみたところ叡一くんはかなり人間っぽいけど、本来なら宇宙で生きているイルカなので、私達にはちょっと理由の分からない風習があったりするのかもしれないし。

 だから来るとして、それがどういうことなのか。

 前の襲撃の後、昨日、ドイツのケルンにTOXの襲来があった。これは普通のペースだ。

 だいたい週一回、月に四回前後、世界中のいろいろな場所に落ちている。

 手元の携帯端末で直近のTOX襲来情報を調べてみると、直近の東京からならこんな感じになる。


 5・22 東京

 5・31 フランクフルト

 6・5 デンバー

 6・16 キンサシャ

 6・24 東京近郊

 7・3 ケルン


 東京近郊というのが折瀬、この村だ。

 本来ならルクセンブルクとケルン(約一七〇キロメートル)より東京から折瀬(約二二〇キロメートル)の方が距離は遠いんだけど、それらしい大都市がないので東京近郊ということになってしまったらしい。

 実際、TOXが来ているのはドイツとかアメリカとか、やっぱり人口が多い地域ではある。キンサシャはアフリカだけど、ここはアフリカでも指折り、世界全体でも有数の大都市だ。それに東京は特異的にTOXの襲来が多いのもあるし、どうやら近隣の襲来を吸い寄せいている節もある。だから折瀬が『東京近郊』にされてしまったのはやむを得ないという感じもある。折瀬が田舎なのはご存知のとおりだし、東京はTOXの襲来においてそれぐらい特別な地域だ。

 その東京をして、頻度というのはこれぐらいだったりもする。だいたいTOX事象五回あたり一回が東京である。それが、この頻度で折瀬にまた?

 相手が叡一くんでなければ単なる嘘だと思っていたはずだ。叡一くん相手でもほとんど信じがたい。でも、私を騙す意味もないからなぁ。冗談とか? うん、確かにその可能性は否定できないけど、当の叡一くんはそれほどそういう性質(たち)の悪いジョークを言いたがるような性格でも無さそうなんだよな。


 叡一くんの予言が事実だとして、防衛隊でもなければ幹侍郎ちゃんを抱えてるわけでもない、なんだったら一番関係なさそうな私に言うのはなぜなんだ、というも疑問だ。

 めんどくさいなぁ。

 いや、めんどくさいというとちょっと横着すぎるか。

 もう少し丁寧に表現すると、私はTOXに関して特定の利益に直結する属性を持っていない。だからここで改めてどうすべきかを判断する必要が起きてしまうのだ。

 それがしんどい。

 逆に、防衛隊とか幹侍郎ちゃんとかのそれぞれの属性の比較的中間に居るとも言えるから、いずれかに偏って全体としての損が大きい判断が出てくる蓋然性は低いのかもしれない。

 叡一くんに意図があるとすればそんな感じか。

 ……いや。

 叡一くんはそこら辺の事情を知らないからこれは違う。

 それでも結果的に彼の判断は正しい。

 けど、私はしんどい。

 ……。

 一人だけ先に教えてもらって、私はなにをすればいいのか。

 仮に知ったとしても、別に私になにかができるわけではないはずなんだけど……。

 逆に叡一くんはなんで私に教えてくれたんだろう。

 仲良くしたいとか言ってたから、好意かなぁ……。

 特に嬉しくはないなぁ……。

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