……7月4日(月) 15:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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「私、実はお着替え大好きなんだ。DNAに刻まれた魂の喜びを感じるわ」
DNAなんて無さそうなのに?
「じゃあ私はこの服にするから、もう片方は佐々也ちゃんが着てみて?」
「へ? あたし?」
ハルカちゃんの急なネタフリにちょっとついていけず、この場に佐々也は私しかいないのに、つい聞き返してしまった。
「そうそう。そっちの服は佐々也ちゃんの方が似合う。私のDNAも言ってる」
だから、アミノ酸も使ってないのにどこのDNAだよ。
とは言わずに、普通の言葉で断る。
「私、きれいな服って汚しちゃうから……」
「着てくれないの?」
窓ちゃんが潤んだ目で私のことを見てくる。
いい機会だからということで、窓ちゃんもさっとハルカちゃんの話に乗ってきた。
そう。窓ちゃんは昔から時々私にも着せ替えをしていた。見たことはないけど、ユカちゃんにもしているんじゃないかという気がする。
こう来られると弱い。まず窓ちゃんはなかなか諦めない。そもそも、友達のお願いを断るのもなかなかしんどい。さらに言えば今日もハルカちゃんの買い物に付き合ってもらうという借りまである。
私と窓ちゃんの間では貸し借りがあるからどうこうということはないから絶対に嫌なら断ったって良いんだけど、こういう着せ替えは苦痛ではあるものの、友情と天秤にかけるようなそこまでではない。
「……わかった。着る」
しぶしぶという様子を隠さずにそう答えて、私は二人に見守られながら、桜色のトップスとアイボリーのキュロットを着る。
いや、後ろ向かないのかよ!
人類文明の叡智はどこへ行ったんだよ!
とはいえ、二人の様子があまりにも自然でなんとなく目をそらすことを要求するのもおかしい気分になってしまい、猿のような気持ちになりながらその場でTシャツを脱いでトップスを着て、カーゴパンツを脱いでキュロットを履く。
着替えてる最中にボタン掛け違えてるよとか教えてもらったり、キュロットのホックを止めるのを手伝ってもらったりした。私には履いてる途中で飾りボタンと本当のホックの見分けがつかなかくなってたからね、手伝ってもらえるとありがたいよね。
……私は服を着るのも下手。
二人が後ろを向かずに私を見ていた理由もわかった。結果としてありがたかった。
でもなんか非常に惨めな気持ちだ。
「ほら、可愛い」
「佐々也ちゃん似合う」
着替え終わって、顔を向け直そうとするぐらいのときに、二人は盛大に褒めてくれた。
「そ、そうかな? へへ」
ありがとう二人とも。褒めてくれて。
服を着るのに苦労はしたけど、着た服が似合うと言って褒めてもらうのは単純に嬉しい。
それでも私は着慣れない服で落ち着かない。上は上で生地が軽すぎて脱げそうな気がするし、下は下で慣れない感じ。キュロットと言えばズボンなのにスースーする。
「じゃ、行こうか」
「ちょっと待ってこれで出かけるの?」
まさかそう来るとは!
写真撮って着替え直すんだと思ってた。
「嫌?」
「嫌というか……、私こういうの汚しちゃうんだよ、本当に」
「流石にどろんこ遊びをしたりはしないんだし、ちょっとぐらいなら平気平気。私、その格好の佐々也ちゃんと一緒にお出かけしたいの」
と、窓ちゃんはこう言って私の手を引っ張る。
そうなんだよ、これという時にはけっこう強引なんだよ窓ちゃんは。
いまがその時なのか、という驚きはあるけど、これは言う通りにするしかない感じだ。
参ったなぁ。ほんとに、普段の服の倍以上疲れてしまうんだよ。
玄関ホールで写真を取られていたら、ゴジがやってきて合流。さあ出かけよう。
でも、私の服を見て驚いたのかゴジは近寄ってくれなかった。ほらー。ゴジも反対してるよー。
「よかったね、佐々也ちゃん。護治郎くんも可愛いってさ」
髪につけるアクセサリーとか、学校行事のお出かけなんかのとき、窓ちゃんには時折、今日のように私を飾り立てたがる時があって、そういうとき窓ちゃんはよくこうやって他人の口を借りて褒めてくれようとする。
だからこれもたまたまそこにいたゴジの名前を言ったってだけで、深い意味はないのもわかってるんだけど、ゴジのことを好きになったらしい今の窓ちゃんから言われるとなんとなく別の意味を感じ取ってしまって変な気持ちだ。




