6月20日(月) 19:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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6月20日(月)
19:40
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小道に降りてから私の家まではほんの数分。
喋ってればすぐの距離だから、もう半分ぐらい来た。
「あっ!」
ちょうど半分ぐらいのところ、ランタンとランタンのちょうど真ん中で一番暗いあたり、最後にちょっと登る手前の小さな窪地の底。道の脇の藪の中でなにかがキラッと光ったのを見かけて、つい声が出てしまった。
そちらに目を向けると金属の光沢なのか、ぼんやりと光っているような気がする。
「なにかあった?」
「あそこ、何かあるよ?」
「その意味の在るってことじゃなかったんだけどな……」
ゴジはそんなことをぼやきながら、億劫そうに私が指差した方を見る。
その間に私もなにが見えたのか、目を凝らすとぼんやりと形が見えてきた。
「あれは……、フィギュア?」
「え? フィギュア? うわ、こわ。人型だよ……。フィギュアって、あんなにデカいもん? 実寸大じゃない?」
「たしかにサイズ的には人間大だけど、洋服屋のマネキンにしては造形が可愛いすぎるよ」
あたしの指摘にゴジはさらに目を凝らしたようだ。
うーん、という軽い唸り声を上げた。
「可愛い……、かもしれない。なんかそんな雰囲気あるけど、暗くてよく見えないな……。ただ下半身は無いし、裸像ではないようだけどんな衣装なのかは……。彩色してない単色でここからじゃ細かいところまでは見えないからマネキンぽさく見えると思うんだけど……」
確かによく見えない。
それ(・・)までの距離は二〇メートルぐらいで遠いというほどではないんだけど、藪の中の窪んだところに置いてあるので物影になったところもあるし、なにより夜だ。暗い中、細部まで見極められるような距離というわけでもない。
「マネキンって顔がない方が都合いいからあんなに頭が繊細な造りになってないのが普通だとおも……。気になるからちょっと見てくる」
よっと、踏み出そうとしたら、ゴジに肩を掴んで止められた。
「駄目だよ。暗くなってから藪に入ったら駄目」
「これぐらいなら近いから、大丈夫だって」
「駄目だって。足元つっかけたら危ないよ。それにあれがなんだか正体もわからないのに暗いせいでかなり近づかなといけないから、余計に危ない。明日の朝、学校行くときに写真撮って持っていってあげるから、今は止めときな」
「いや、自分で見に来るからゴジはそこまでしてくれなくていいよ。家からすぐそこなんだから。でも、写真はいいね、いま撮ろう。よっ」
言いながら私は自分の携端――手のひらサイズの携帯コンピュータ――を取り出して、カメラを使う。シャッター音のあとに映し出された画像を確認しても単なるほぼ真っ黒。ランタンの反射光とか自動の画像補正で真の暗黒画像ではないけど、見た瞬間に意味が分かる写真ではない。
でもこれでも、加工して明度を上げたらきっとなにかは見えるだろう。




