7月4日(月) 10:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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7月4日(月)
10:30
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午前中の授業を半分終えて、二〇分間の中休憩
学校のリモプレでは、今日も変わらず私とハルカちゃんの二人で端末を使っている。
「あれ? ハルカちゃん、今日は制服じゃないの?」
「そのTシャツ、もしかして佐々也ちゃんのやつ? 見たことある」
などなどの質問がハルカちゃんに寄せられる。
休み時間の会話にまで付き合う必要はないから、私はカメラのフレームから外れて居ないフリ。お喋りをしたい時だってもちろんあるんだけど、休憩に休みを取りたい時もある。授業を集中して聞いた後なんかには、見直したり振り返ったりをするわけではなくても、友達とお喋りをすることより頭を休めて脳活動のギアを下げる必要がある場合がある。今日の午前は化学と倫理社会で、純粋に知らないことや興味深い話があったおかげで集中して聞いてしまった。
私はどうやら他人より頭を使わないと楽しくお喋りもできないらしい。世の中にはおしゃべりしながら休憩ができる人も多い様子なんだけど、私にその能力は無い。こういう集中した時のギアの上げ下げが自由自在にできたら便利なんだけど、興味を持てるかどうかにかなり依存してしまうので自分の思いどおりにはならない。
目を閉じて情報を減らす。耳からはハルカちゃんたちが話す声が聞こえるけど、私が喋らなくてよい話なので、ぼんやりと無視していられるのであれば休憩の邪魔にはならない。
「うん。このTシャツは佐々也ちゃんに借りたやつ。いやー、佐々也ちゃんにはお世話になりっぱなしで、ほんとにありがたいよ」
ハルカちゃんの身の上の設定は、いつの間にか『海外留学中に黙って縁談が進められていたのだけど実父が謎の失踪をして、望まない縁談を避けて逃げ出し、遠い親戚の神指家を頼ってきた』ということになっていた。なにその複雑な設定。
一番最初にはノーアイディアだったんだけど、ポロッと口を滑らせた両親がいないとか、神指家に住んでるとか、普通なら持ってるはずの個人端末を持ってないとか、いろいろ適当にごまかしてる内にこうなってしまった感じだ。
まぁ、確認を取りやすい話は無いので、これで行けばいいかなとは思ってる。
怪しんだところで真相にたどり着けるわけは無し。
「えー、でも、佐々也ちゃんのTシャツとか着ちゃうんだ」
「Tシャツだけじゃなくて、ズボンも借りてるよ」
「えー、ほんとに!? 仲良すぎて怪しいな〜」
いや怪しくないだろ。服が無いんだから、ズボンだって無い。
下半身裸で居させろってことか?
「うん。仲良しなの。ふふっ」
「ひゃー。これは衝撃的な発言」
ハルカちゃんはなんだかお祈りみたいに可愛らしく両手を組んで、斜めにしてアピールしている。
ハルカちゃんと話す画面の向こうの二人は嬌声を上げている。
なに言ってるんだよ、と言ってハルカちゃんの頭にチョプでもしてツッコミを入れたい衝動に駆られたけど、私はここには居ない設定になっているので、ぐっと堪える。
「佐々也ちゃんの服ってことは、ちょっとおっきくない? ほら、佐々也ちゃんってこうだし」
画面の向こうでなにかジェスチャーしてたようだけど、場所を離れた私にはどんなジェスチャーか見えない。
こうってなんだよこうって。どうなんだよ。
「Tシャツだから、サイズはあんまり関係ないよ」
「そう? 肩周りとか、だいぶ余裕がありそうに見えるけど?」
「肩周り首周りはそうかも。でも普通の範囲だと思うけど」
「小さいよりはね。たしかに」
デブで悪かったな。
どっちかっていうとハルカちゃんがお人形さんで細すぎるんだよ! 実際、本当にお人形さん、というかフィギュアみたいなもんなんだし。
居ないと思って好き放題言うんだから……。
会話にツッコミどころがありすぎてぜんぜん休憩にならない。
しかも私の話題が多いせいで、戻ったふりもしにくい。
仕方ないからほんとにトイレに行こ。




