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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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7月4日(月) 8:00

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第五章 秘密とは隠して知らせる情報


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 こうなんというのか、ハルカちゃんの裸形の美々しさに当てられた感じか?

「うーん……」

「まぁでもいいわ、下着姿は禁忌なわけね。その辺の空気感って資料だけだとよくわからないから、今後の参考にさせてもらう」


「禁忌かといわれると、そんなに厳しい禁忌でもないと言うか、同性間ではあんまり問題にならないことの方が多いというか、それこそ一緒にお風呂に入ったりもするから場合によるみたいなところもあるわけで……」

「ああ、文脈依存性が高いのね。それは事例を収集するしかないのか……」

「事例を収集?」

 なにすんだろ?

 人前で裸になる機会なんてそんなにあるもんじゃないと思うけど、例えばどこかで実験のために脱いでみたりする感じ? 連想的に、道端で服を脱いで下着型の表面を露出するハルカちゃんの姿が思い浮かぶ。あまりにも危険な絵面になってしまい、思わず大声が出た。

「いや実験はまずいって!」

「実験……。その手があったか……」

 なるほど、みたいな雰囲気で顎に手を当てて考え込むような素振りを見せる。

 しまった! 余計な知恵をつけたか。

「いやだから実験はまずいよ。公衆の面前で露出をすると、痴漢でおまわりさんに捕まったりするから」

「つまり公衆の面前でなければそのリスクはないと……」

 ここは公共空間でないよねと言いながら玄関ホールあたりで服を脱ぐハルカちゃんの姿が容易に思い浮かぶ。

「!!! 駄目だって! 急に裸とか見せられたら、ゴジだって可哀想だし」

「護治郎くん?」

「他の人でも駄目だよ? ゴジは例。一番身近だから、標的になりそうだと思っただけ」

 私は普段から思いついたことをそのまま喋っている方だとは思うけど、それでも言うか言わないかの選択ぐらいはしているらしい。いまは本当に思ったことがそのまま口から出てくる非常に余裕のない感じである。自分でも思いがけない事を喋っていて、これは良くない。

「……。まぁ、私が裸を見せると佐々也ちゃんが嫌がるということは分かったわ」

 なんだよその独占欲が強い恋人みたいな言い方は。

「私が嫌がるのは事の本質じゃないんだよ。世の中では認められてないという意味だから」

「それが禁忌って言葉の意味なんじゃないの?」

 ……それはそうだよな。正しい。

「そう。裸は基本的に禁忌。例外もあるけど基本的には禁忌」

「基本的に?」

「うん。基本的に。例外もある。例えば一緒にお風呂に入るときや、何かの事情で着替えをするとき、暑すぎて身なりに構うことができないぐらい判断力が失われていると考えるとき、などなど。そういう場合に同性に対しては便宜に応じて恥ずかしがるのを停止しても良い事になってるんだと思う」

「セパレートなんかで露出の多い水着は?」

「ああいうのは正常な判断力を失ってるんだよっ!」

 知らんよ! 私は水着を自分で着たいと思ったことがない!

 というか進んで泳ぎたいと思ったことがないし、水着を選ぼうと思ったことがない。

「ほんとに?」

「……いや、それは言いすぎたかもしれない。水着は恥ずかしがらなくても良いって規則が別に有るのかも。……別に法律なんかで決まってるわけじゃないけど……」

 今の発言は、モデルみたいなの水着を仕事にしている人に対してひどい侮辱になってしまっているような気がする。自分で選ぼうと思ったことがないから、なにを理由に判断してるのかまではよく分からないけど、さすがに全員が全員正常な判断力を失う状況だとは思えないし、もし居るとしたら好んでそれを仕事にしている人に対して異常であると言い切ったことに等しいわけで、実に申し訳が立たない。

 そもそも私は普段の服だって、それほど選んで着てるわけじゃない。水着に限って選んだことがないってわけじゃない。私はあんまり着るものを選ぼうと思ったことがない。

 それなのに水着の人のことを簡単に決めつけて、私は酷いやつだ。

 酷いことを言ってしまった衝撃で頭に登っていた血の気が引いて、ちょっと冷静になった。さっきまでよりもう少し考えて喋れるようになった気がする。

「その……、原則的には裸になると恥ずかしがる必要がある。恥ずかしがっている人を見て喜んではいけない。合理的な理由がある場合には例外として恥ずかしがらなくても良い。みたいな感じかもしれない……」

 特に明言されてるわけではないから自分の中にある規則を取り出して改めて言語化してみたらこんな感じだった。実際、規則性としてはこんなところだと思う。

 しかし、誰に教えられたわけでもないのに、私はどこでこんな複雑な規則を身に付けたんだろうか。

「まぁそうでしょうね。私がいた世界の人間もそんな感じだったし、私だって人間社会の生き物だからね。基本的には同じような感覚だわ。趣味で見てる昔のアニメでもそんな感じだったし」

「は? 知っててからかってたの?」

 ひどい。

 けどそうだった。最初からハルカちゃん自身は人間社会から来たって言ってた。

 こんなよくわからない理由で反省したり傷ついたりしたのに。

「ごめんね。でも、佐々也ちゃんがあまりにも挙動不審だったから、もしかしたら違うかもしれないと思って……」

 たしかに私は挙動不審だった。そこは認めるしかない。

 自業自得だったか……。

「はぁ……」

 自分自身に憤懣やる方ないよ、私は。

 ここで、ついこの前思いついた疑問を聞いてみる。

「もしかしてハルカちゃんって、文化的には日本人?」

「……厳密には違うけど、日本起源の文化世界で暮らしていた感じではあるかな」

 やっぱりなぁ、という感じではある。

 まぁ、これについては天宮ハルカなんて名前なんだから、名前を見ただけで確信しても良かったところではあるんだけど。

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