7月3日(日) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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7月3日(日)
18:00
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今日は丸一日、幹侍郎ちゃんと遊んだ。
ゴジは自分の用事をするそうだ。
用事というか、幹侍郎ちゃんから離れる時間が欲しかっただけみたいな感じみたい。まぁ、これまでずっと一人で幹侍郎ちゃんの遊び相手までやっていたんだから、ゴジが息抜きをする時間があったほうが良い。それでも時々見に来るとは言ってた。
幹侍郎ちゃんは私と一緒に映画が見たかったらしくて、なんだか妙に社会派っぽい問題を提起してくる特撮シリーズの映画版を見ることになった。午前中はハルカちゃんも一緒に居た。
私は特撮とかあんまり見ないので、ヒーローの姿形ぐらいはどこかで見たことがあるんだけどそれいがいの登場人物たちまでは知らない。でも、幹侍郎ちゃんに聞くとけっこう嬉しそうに色々と教えてくれる。
逆に、社会問題については幹侍郎ちゃんが知らないので、政府の働きとか法律ってどういうものかみたいなことの説明を要求される。私も知っている範囲で答える。
「政治家ってなに」「こういう場合は国会議員だと思う」とか、「秘書ってなに?」「なんか議員の弟子みたいな感じの人」とか。わからないなりに、ひとこと説明があるとその場はそれでいいらしい。不思議と幹侍郎ちゃんはハルカちゃんにはあまり話しかけず、主に私に話しかけてくる。
終わってみるとその映画は、秘書が政治家を騙しており、秘書はヒーローに倒され、政治家は無能ながら改心して辞職して近所の花屋のおじさんになるという話だった。「弟子なのに師匠を騙すの?」とか「師匠は辞めるだけでいいの?」とか、そういう話を私に聞きたかったらしい。
そんなの別に正解があることではないので、「議員というのは選挙で選ばれてるので特別偉く、秘書は弟子でもあるし有能な場合には議員の活動に影響を与えるのだ。よく知らんけど」とか「騙されたのは悪かったけど、政治家は気のいいおじさんだったから殺しちゃうのは脚本家も可愛そうだったんじゃないかな」とかそういう受け答えをした。「なんで花屋になったの?」「それは私もさっぱりわからんね」とか。見終わった跡にそういうなぜなぜ問答を少し繰り返して、ちょうどお昼の時間になったので私はご飯を食べた。
ご飯を食べている最中、いちおう同じ部屋の中にはいたハルカちゃんが退出して行った。
映画に興味がないのかと思ったら、服を換えられるように表面を張り変えるとのこと。明朝には終わるそうだ。
その言い方を聞いて、皮を剥いで付け替える的な非常に嫌な想像が頭の中に渦巻いた。
午後、また別の映画、といって幹侍郎ちゃんがまた別のヒーロー物を持ち出してきた。
日曜日の夕方まで、そういう感じで映画ばっかり三本も見た。
二本目と三本目は同じシリーズのロボットアニメで、TOXと戦うふりをして最後には総理大臣を倒して革命をしていた。日本では総理大臣を倒しても革命にはならないだろ、という気もしたけど、もうこれが上手く説明できない。総理大臣と王様は違うので。なんでそうなるのか社会科で習ったことのような気はするんだけど、個別の制度の名前とかは言えるんだけど、「なんで総理大臣を倒しても王様を倒した時みたいに革命にならないか」を言い表せない。
選挙とかやって次の総理大臣を選ぶことになるんだけど、なんでみんなは主人公たちの言うことを聞かないのか、言うことを聞かないとどうなるのか、次の総理大臣になれなかったら主人公たちはどうなるのか、全部答えられない。
「日本には天皇っていう人がいるんでしょ?」居ますね……。そんなのもっと難しい。「総理大臣より天皇のほうが偉いの?」象徴という立場なので、特に偉くもないんですよ。いや偉いことは偉いのかも。偉いって言葉がどういう事を指してるのかみたいな話で、えーっと、天皇は政治家にはなれないって法律で決まってるんだよ。
「佐々也ちゃんも知らないことがあるんだね」て言われちゃったけど、あるある、たくさんあるよ。「勉強したらわかるようになる?」どうだろうか、天皇がなんで政治家になれないかっていうのはそう決めた理屈があるから勉強したらわかるようになると思うけど、総理大臣を倒した人が次の総理大臣になれない理由とか、なんでみんなが選挙をして政治家を選ぶのかとかについてはもしかしたらわからないかも。
どういう理由でその制度ができたのかという説明は勉強したらたどり着けるかもしれないけど、なんでみんなが法律を守っているのか、逆に守らない人がいるのはどうしてなのか、みたいなことは勉強ではたどり着けないような気がする。そういうときは、学者になって研究するんだよ。
「僕も学者になれる?」どうかな……、私も学者になる方法は知らない。博士号とかそういう資格があるってのは知ってるんだけど、博士号を持っている学者じゃない人っていうのもいるみたいだからね。
幹侍郎ちゃんの将来。
このまま、ここにずっと居て良いわけじゃないんだよな。
出たところで行先がないとはいえ、このままでは幹侍郎ちゃんが可愛そうだ。そうは言っても、ただただここを出て行ったとしても可哀想な目にあってしまいそうではある。
……今後、ゆくゆく、五年後、十年後に幹侍郎ちゃんをどうするのか、幹侍郎ちゃんはどうなることができるのか、まったく思い描くことができない。
ゴジにはなにか考えがあるんだろうか。あれで頭の悪い人間ではないから、気がついていないということはないと思う。けど、名案があるならすでに聞かされているような気もする。
なんだか暗い心持ちになってきてしまったけど、幹侍郎ちゃんにその様子は見せないように気をつけた。




