……6月20日(月) 19:35
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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「それは……、本当に流れ星なのか?」
「サイビのニュースでやってたけど流れ星だってさ。本当はすごく明るかったから正式には火球って呼ぶらしいけど、流れ星と同じものなんだって。一昨日のやつは日本海方面から北関東から南東北の方に向けて流れたらしい」
「へーえ」
ゴジから気の抜けた返事。
会話というより報告だったから、相槌を打つぐらいしかすることがないのだろう。
土留めの階段を降りきると周囲は林。階段を下りきる最後の辺りでは、周りの林が視線の上に上がってきて夜空の燐光も遮られてゆく。木々の海に潜ってゆくような気分で、一人で歩くときには途端に心細くなってしまうことが多い。話し相手がいれば紛れてしまうぐらいの、小さな気分の揺らぎなのだけど。
下りた先の小道は斜面になった林の中を通るハイキングコースのような道で、通ろうと思えばギリギリ軽トラなんかも通れるぐらいの幅と傾斜。アスファルトではないけどそれなりに整備はされている。ところどころに公設のソーラーランタンがあって真っ暗だったりもしない。
ここを数分下りていけば私の家に着く。ゴジの家からは私の家が見えるけど、林の中に降りてくると木々に遮られて見えなくなってしまう。
この道は暗くなってからだと人通りは基本的に無い。登って行く方は集落を見下ろす展望台まで歩いて三十分で、その間に農地はあっても人家がないから。極稀に夜に展望台に行きたがる人が居るんだけど、村の顔見知りだから理由を聞いたことがあって、その時は夏だったから来客のためにクワガタ取りの仕込みをしに行くという話だった。
なるほどわからんことはない。逆に言えばそれぐらいしか用事のない場所だ。
この道にある公設のソーラーランタンも交通の便を考えているというのではなくて、義理とか遭難防止とかの理由らしい。ランタンとランタンの間はけっこう離れていて、明かりと明かりを繋ぎながら歩いているとホラーゲームでガイドマーカーを順繰りに追っているような気分になってくる。ランタンの周りでキラッと光っている壺とか木の洞を調べると、弾丸とか回復役とかが落ちているってやつだ。見回してもランタン以外には特になにも光っていないので、すでに回収済みなんだろうと思う。
燐光も樹冠に遮られて道沿いは暗い。
しかもランタンがある分だけ逆に、無いところが更に暗いように感じてしまう。
もちろん本当に暗さにムラがあるわけではないことは理屈で考えればわかる。手軽に言うと気のせい、もう少し丁寧に言うと虹彩の仕組みの関係で映像を見ている私の側が基準としている明るさが変わっているという問題だ。
「……かきゅうって、どんな字で書くの?」
思い出したように、ゴジからさっきの話題の質問。周囲も暗いし、黙っているのも気まずくなったのかもしれない。
「火の球。ニュースではそう言ってたよ」
「佐々也はこっち向きに火の玉が落ちてくるのをみたんだな。……ぶつかったら危ないんじゃない?」
ゴジがそう言って笑っている。
危ないどころか死ぬと思うが、笑いごとなのか?
まぁ、いま生きてるんだから笑うぐらいしかないか。いまさら心配しても仕方ない。
でもぱっと思いついたことをこちらからも聞いてみる。
「そういう地上まで落ちてくるのは隕石って言うんじゃないの? 隕石と流れ星は違うの?」
「そんなこと聞かれても僕は知らんけど……。あっ、宇宙から落ちてきたならTOXかもしれないのか……。大丈夫だった?」
何故か急に慌てだしたゴジに、今度は私が笑ってしまった。
「TOXなら予報が出るから違うよ。それに、TOXってもっと人の多いところに行くものだから、ここいら辺になんて来るわけないって」
「それもそうか……」




