6月21日(火) お昼休み終了二分前
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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6月21日(火)
お昼休み終了二分前
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「佐々也は、なんでそんなアプリを持ってるんだよ!」
私が可愛い女の子の顔写真を見せると、ゴジがそんな事を言ってきた。
楽しい会話のときによくあるツッコミというやつなので、あまり頑張って反論したりする必要はない。
「いや、あの、写真の明度調整しようと思ってアプリないかと探したらこのアプリが出てきたんだ」
本当は明度の調整をしただけだとなにがなんだかわからないから、写真からなにか意味のある部分を取り出せないかを携端――携帯端末――で調べてたら、誰かがおすすめしている特定趣味向けの解析アプリを見つけてしまったのだ。
今は昼休みが終わりもう次の授業が始まるだろうという短い時間。
鶴賀商店で買った夏みかん昼食に食べ終えて、剥いた皮を机の端の方に寄せていたら幼馴染のゴジが寄って来た。それで、昨日の夕方に家の近所の藪の中に放置されているのを見つけた等身大フィギュアが、今朝には無くなっていたという話をしに来た。そこから話が二転三転してその藪の中のフィギュアの顔写真を見せることになって、私が持っているはずのないその写真を入手するために使ったアプリの話になった。
昨日フィギュアを発見したときに撮った遠目の写真を人物追跡用の画像解析アプリで解析したら、結果の一つとして正面から見た顔写真が出てきたんである。
「でも、すごく可愛いと思わない?」
「可愛い……かな? 未塗装なうえに白目だからよくわからない……。え? ここに書いてある、死亡確率ってなに? 九八パーセント?」
「ああ、画像に写ってるのが事故現場だったときとかに怪我の状態とか判断してくれる機能があるみたい。あのフィギュアは下半身が無かったし顔色も普通じゃなかったから、それで死亡確率が高いらしいよ。説明文は、ええとどこを操作すると見れるんだっけ?」
「いいよ別に見せなくて! そもそもなんでそんな死んでるかどうかなんて解析したんだよ、こわ……。人形だからそりゃ生きてなくても良いんだけど、逆にこの二パーセントはなんなわけ?」
「そこはガバ判定らしい。なんでも浮世絵とか判定しても二桁行くこともあるらしいし」
「浮世絵より生存確率低いの!? このフィギュア!? リアルっぽい造形に見えるけど」
「ああなるほど? そうかもね、まあいいや」
そんなこんなゴジと話していたら、「ちゅうもくー」と大きな声で注目を集めながら教室前方のドアが開いて渡部先生が入ってきた。
え? 午後の授業はリモプレでホームルームでもないのに、どうして先生が来たの?
なに? なんで?
気がつくと、さっきまで話していたゴジは私が混乱してるうちに自分の席に戻っていた。
横目にゴジを見てから改めて渡部先生の方に目をやると、ものすごい美少女を連れている。
とてつもなく整った顔立ちをしていて、髪の毛はメタリックな銀色。
そして私達が着ているのとは違う、どこかの学校の制服を着ている。
「あー、みんなに転校生を紹介します。じゃあ、挨拶して」