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前世に犯した罪

騎士団へ行った翌日の事であった。

メルディーナは、レオル皇太子からディナーに誘われた。

腰から下、レースをふんだんに使ってはあるが、上はすっきりしたデザインの真紅のドレスでメルディーナは出かける。

真紅は好きな色だ。メルディーナのきつめの顔立ちと漆黒の髪を際立たせてくれる。


皇宮の中庭に面したテラスで、沈みゆく夕日と、品よく手入れされた中庭を前に、レオル皇太子と食事と会話を楽しむ。


「メルディーナのマナーは完璧だな。仕草がとても美しい。」


「有難うございます。皇太子殿下に褒められて嬉しいですわ。」


「それはそうと…。この間、其方を襲った者達の黒幕が、アレクシア公爵家だと判明した。フォンディーヌとは婚約解消したよ。」


「まぁ…。余程、わたくしが邪魔だったのですわね。」


「私としては、次の婚約者を探したいところだが。」


チラリとこちらを見ているわ。皇太子殿下。わたくしに気があるのかしら。


「良いお嬢様が見つかるといいですわ。」


優雅な手つきで、ナイフとフォークを使い、肉を口に運ぶメルディーナ。


嫣然と微笑んで見つめれば、レオル皇太子は頬を赤くして。


「メルディーナは夫であるリカルドを離縁したと聞いている。私はまだ其方の事を知らないが…。其方の事をもっと知りたい…。」


「まぁ…それは…婚約者候補としてですの?」


「そうだ。婚約者とするには、まだ、メルディーナの事を、私は良く知らない。だから、

もっと良く知ってから…。どうか、私と付き合って頂けないだろうか。」


「よろしくてよ。こうして食事をして、共に夜会へ出て、お付き合いすれば、わたくしという人間が皇太子殿下にとって見えてくると思いますわ。」


「有難う。ああ、本当に、大輪の薔薇のようだ。メルディーナ…。」



ああ、これなら、皇妃になる道が開けたようなものね。

わたくし程、優秀な候補はいないでしょう。


でも、何故…心が重く沈むのかしら…。

きっとそう…あの男のせいだわ。



翌日の朝、メルディーナは、白のシャツに黒のズボンとブーツ姿で、白馬に乗って、

騎士団へと向かっていた。


門番に断って皇宮の庭に入ると、大勢の騎士達が、庭に出ており、その中に、

アルク・ルシファンの姿を見つけて。


「アルク・ルシファン。ちょっと付き合って下さらない?」


「何か、俺に用事があるんでしょうか。」


「ええ。」


「ちょっと、団長に断ってきます。」


しばらくしてから、アルクは戻って来て、

メルディーナはアルクを連れて、皇宮の外へ出た。


乗って来た白馬を引き、共に並んで歩く。


「あの…俺になんの用でしょう…。」


「貴方…覚えていないの?わたくしと共に過ごしたあの日々を。」


「この間、お会いしたのが初対面だと思いますが。」


わたくしが、覚えていると言うのに、アルクが覚えていないことが許せない。


「貴方とわたくしは、前世で夫婦だったの。わたくしはジュエル帝国の女帝、貴方はその

夫だったわ。残念ながら、貴方はわたくしが女帝になってから、7年後に池に落ちる事故でなくなったけど。貴方は最強の運を持つ人間を時々輩出するダンゼン男爵家の出だった。

貴方の祖先からは、皇妃になった女性もいたのよ。貴方のお陰でわたくしは、女帝になれたの。でも、その強運を持つ男でなかったら、わたくしは、結婚しなかったでしょうけど。」


「俺の前世と言ったら、やはり、冴えない普通の男だったんでしょうね…。」


「ええ…ちょっと物足りなかったわ。それでも、わたくしは、あなたとの子をなして幸せだったけれども。」


「メルディーナ様…。最強の運を持つ男が、どうして池に落ちる事故で亡くなったんでしょう…。」


「アルク?確かに、そうね…。彼の運が尽きてしまったのかしら。」


「貴方は美しくて、とても高貴な方だ。もし、俺が前世で貴方と夫婦だったとしたら、

きっと、謝り続けていたと思う。ごめんなさい。ごめんなさい。こんな、無能な男が貴方の夫になってごめんなさい。って…」


ああ…何を言うの?アルクっ…。確かにそうだわ。

いつも、すまない。すまないって…。自分のような男が貴方の夫ですまないって…


「貴方を女帝にする事にこそ、最強の運を発揮したんだろうけれども、きっと…その後は、普通の人だったと思う…彼は…だから、その事に苦しんで、自ら身を投げたんじゃないですか…。メルディーナ様。」


なんて事…そんな…なんて事なんでしょう。


「あああ…アルクっ…アルクっ…ごめんなさい。わたくし、貴方の苦しみに気が付かなくて。忙しかったの。あの頃は、忙しくて…。」


「貴方は俺をずっと見下していた…。今世こそ、貴方にふさわしい方を見つけて幸せになって下さい。二度とお会いする事もないでしょう。失礼します。」


あんなにも…アルクを苦しめていたなんて、知らなかったの…

これではわたくしは、わたくしを愚かな人間だと言って散々苦しめて来たリカルドと同じ、わたくしは同じ人間だったんだわ。


涙が流れる…

なんて、自分は愚かな事をしていたんだろう。前世において。


帝国の真紅の薔薇、氷の女帝と謳われて、いい気になっていたバチが当たったのよ。


メルディーナは絶望に崩れ落ちた。

アルクが去った方をいつまでも見つめているのであった。


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