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前世の夫と再会しました。

翌日、メルディーナが作っておいた真紅の鎧を着て、出かけようとすれば、

叔父のベイゼンが、訪ねて来たと言うので、客間に通した。


ベイゼンはメルディーナが早くに両親を亡くしてから、後見人になってくれていたのだが、

この叔父のせいで、金が自由にならず、苦労してきたのだ。

メルディーナに、リカルドとの縁談を紹介したのがこの叔父で、結婚してからは公爵家のリカルドの元へ、良く金の無心に来ていた。リカルドは小金をやって、追い返していたが。


ソファに座って、太った身体を揺らしながら、ベイゼンは、


「久しぶりだのう。メルディーナ。実はな。頼みがあって。って、なんて格好をしているんだ?それに見違えるように綺麗になったな。」


対面のソファに座って、足を組み、メルディーナは、


「お金の無心かしら?」


「少々、金に困っていての。メルディーナ。お前の面倒をワシは見てやっていたのだ。

恩があるだろう。だから、金を少々、用立ててくれないかのう。」


「断るわ。何が面倒見てやったって言うのよ。貴方がいなかったら、わたくしは、もっと苦労をせずに暮らすことが出来たわ。何で、貴方がわたくしの叔父なのかしら。

二度と、顔を見せないで下さる?」


「な、何じゃと…。わしを誰だとっ。許せんっ。」


顔を真っ赤にして、立ち上がり、ベイゼンは持っていた杖を振り上げて、


以前のメルディーナなら、叩かれるままになっていたであろう。

この叔父や夫リカルドのせいで、自分に自信のない怯えるだけの女性だったのだから。


メルディーナは怪しげに微笑んで。


「まぁ…。わたくしを叩こうと?」


腰に差してあった剣を振るうと、杖を弾き飛ばしたついでにベイゼンの頭の鬘を吹っ飛ばした。

見事な薄い禿げ頭がさらけ出される。


「うわっーー。何をするんじゃ。」


「鬘で良かったですわね。次は首を吹っ飛ばして差し上げてもよくてよ。」


「くそっーー。覚えておれ。」


ベイゼンは転がるように部屋を出て行った。


あんなのが身内だなんて、寒気がするわ。どうしてわたくしの周りには、ろくな人がいなかったのかしら。


ふと、前世で傍に居た、冴えない元旦那の顔を思い出す。

何をやっても普通の人で…。オーラも何もなくて、どうしようもないほど、地味で。


ああ、嫌だわ。何であの人の顔を思い出したのかしら。

ともかく、今日は騎士団に行って、わたくしの腕が錆びついていないか、確かめましょう。


メルディーナは、馬を引っ張ってくると、飛び乗って。


この白馬は最近購入したものだ。

何度か乗って、乗馬の勘を取り戻すのに、それ程、時間がかからなかった。


あらかじめ調べておいた、騎士団のある皇宮へ、メルディーナは馬を走らせる。

皇宮の庭に、騎士団の駐屯地があるのだ。


前世の夫は、女帝のわたくしの夫にはふさわしくない程の普通の人…

ただ、波乱を乗り越える強運に恵まれていただけで、彼は…平和になれば、ただ、

普通の人で。


それでも…わたくしは…

彼との子が生まれた時は嬉しかった…

彼も泣いて喜んでくれたわ…


あら嫌だわ。何でわたくし、泣いているのかしら…


何で…


今度こそ、真紅の薔薇にふさわしい最高の夫を得て、この国の頂点に立ち、幸せになろうと思っていたのに…。


でも、もう、彼には出会う事はないだろう。


もし、出会っても、今度は絶対に…レオル皇太子殿下を篭絡して、わたくしは…




馬が皇宮の庭に着いて、門番に、要件を伝えれば、

騎士団員の一人が迎えに来てくれた。


「メルディーナ・アシュッツフォアベルク公爵様。我が騎士団員と手合わせしたいと?」


「そうよ。出来れば、騎士団長と手合わせしたいわ。」


「騎士団長と???」


「取り次いで下さらない?」


「解りました。」


騎士団員が騎士団長に取り次いでくれて、了解が出たので、

皇宮の庭に通される。


そこには、この国の騎士団長、大柄の熊のような、岩のような男が待ち構えていた。


「俺が騎士団長ガイアス・シュテファンだ。貴殿が、俺と手合わせしたい、公爵様か?」


「ええ。そうよ。本当に熊のようなお方ね。わたくしは、メルディーナ・アシュッツフォアベルク。お手合わせ願いたいわ。」


周りに野次馬が集まってくる。

皆、騎士団の騎士団員だ。


「いいだろう。だが、俺の力に勝てるか?この国一番の俺の力にな。」


ガイアスは背から大剣を抜き、見せびらかす。


「聖剣と比べれば大したことないわね。」


「聖剣???」


「そうよ。まぁ、わたくしも持った事はないけれども。見た事はあるわ。さぁ、やりましょう。」


二人は睨み合う。


ダっとガイアスは前に出て、メルディーナに、大剣を振るってきた。


身を交わすと、メルディーナもガイアスの首めがけて剣を振るう。


ガキっ。


っと音がして、ガイアスはそれを防ぐと、大剣と思えぬ素早い動きで、下からすくいあげるようにメルディーナを攻撃する。


メルディーナは剣の先でそれを弾き返し、飛び上がると、相手の首めがけて剣を振り下ろす。


それを受け止めるガイアス。


二人の攻防はしばらく続いた。


「なかなか強いわね。」


「お前こそ。こんな強敵に会ったのは初めてだ。」



ああ、とても楽しいわ。こんな楽しい想いをしたのは久しぶり。


ふと、目の端に、見物人の中に見つけたその顔に、メルディーナの注意が逸れた。

シュっと鋭く攻撃してきた大剣をメルディーナは避けた途端、態勢を崩して、倒れ込む。


ガイアスはメルディーナの首に大剣を押し当てて。


「俺の勝ちだな。」


「ああ、しまったわ…。わたくしの負けよ。」


そして、立ち上がり、気の取られた人物を探して、改めて観察してみた。


前世の顔とはまるで違うけど、あのオーラの無さ、平凡な顔立ち…

そう言えば、前世のあの人も、わたくしに出会う前は騎士団に居たんだったわ。他国の騎士団だったけど…。


他の人達を掻き分けて、その人物の前にメルディーナは立ち、


「貴方、お名前は?わたくし、メルディーナ・アシュッツフォアベルク公爵よ。」


「俺の名は、アルク・ルシファン。男爵令息です。」


ああ…わたくしと同じ、名前も前世と一緒なのね…。でも、強運の家系、ダンゼン家は名乗っていない。


「ちょっと失礼…。額を見せて貰っていいかしら。」


彼は前髪を掻き分けて、額を見せてくれた。

強運者が受け継ぐ、星形の黒子は見当たらない。

彼は今や、本当に普通の人に転生したのだ。


でも、間違いなく、彼はアルク…アルク・ダンゼン。

前世の夫だった男だ。


「ねぇ、貴方…わたくしを見て何も感じないの?」


「え???それはその…美しい方だなと…皆、そう思っていると思います。」


そうよね…普通、前世なんて覚えていないわ。

でも、前世の妻が目の前にいるのよ。なんだか思いっきり腹が立つわ。


バシっとアルクの頬を引っ張だいて、


「もっと特別な物を感じなさい。」


驚くアルクを背に、メルディーナは、騎士団長ガイアスに、


「今日は楽しかったわ。又、今度、お手合わせ願えるかしら。再戦したいの。」


「いつでも喜んで。メルディーナ様。」


「それじゃ、又、来るわ。」


メルディーナはその場を後にして、再び、馬に乗って、屋敷に向かう。


アルク…。何で…。何で騎士団なんて…

再会なんてしたくはなかったわ。

わたくしは、帝国の薔薇メルディーナ。

ああ…アルクの事なんて忘れなきゃ…でも、何で、涙が出るの…

どうして…


メルディーナは、何とも言えない気持ちのまま、馬を走らせるのであった。



前世の夫は、アルク・ダンゼン。彼は、「誰がさらわれたんだ?」の話に出て来る主人公で、「公爵令嬢フローラ・フォルダンと美男騎士団長様」のお話では、クライマックスの鍵を握る強運の持ち主です。


ちなみに、ダンゼン男爵家は、過去に最強の運を持つ、アリスティア・ダンゼン男爵令嬢⇒のちに皇妃を輩出している家なのです。まぁそんな感じで。

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