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4/5

師弟の始まり

 ザエたちに圧勝したその日の夜ーー


「はい、オーク揚げ定食5人前お待ち!」

「来た来た。ありがとう、おばちゃん!」

「あいよ、いくらでもおかわりしな!何たって今日のキシシカは凄かったからね」

「ハハハ、俺なんてまだまだだよ」

「そんなこと言いなさんな。あんたにボコボコにされたそこの4人が可哀想だろ」

「おいお前ら、いつまで凹んでんだ?さっさと食え食え。美味いぞ!」

「誰のせいで落ち込んでいると思っている!」


 現在俺の周りには丸テーブルを囲んでザエ、キヨラ、サカシ、ネンズの4名が共に座っている。しかし何故か全員落ち込んでいるのだ。もしかして俺に負けたからだろうか?


「まあ取り敢えず食え。色々言いたいこともあるとは思うが、まずは空腹ぐらい何とかしようぜ。それじゃ俺はお先に。いただきまーす!」


 現在俺が食べている料理は全てタダである。おばちゃんの旦那さんが俺に対して、「勝ったらウチの料理タダで食わせてやるからな!」と言っていたため、本当にこれらはタダ飯なのだ。これがまた美味い。この店、山羊の時計亭はオボユの町では知らないものがいない、安くて美味い飯が食える店だ。


「あ〜美味ぇ〜!懐かしい味だ〜!」

「何言ってんだい、昨日も食ったばかりだろ」


 いや、実際は数十年ぶりに食っている。実はおばちゃんと旦那さんはこのままだと7年後に病気で逝ってしまうのだ。そうだ、どうせなら後でキヨラに診てもらおう。彼女は回復魔法の使い手であると同時に医療にも明るい。おばちゃんと旦那さんに悪い兆候があれば見つけてくれるだろう。


 さて、そんなキヨラだが、


「……いただきます」


 流石に観念したのか、手を合わせた後食べ始めた。やはりお腹は空いていたのかなかなかの食いっぷりだ。残りの3人も彼女につられて徐々に食べ始める。


「何だい、案外よく食うじゃないか。勇者様たちもいっぱいおかわりしておくれ」




 食事が済んだところで俺は話を切り出した。


「さて、約束は覚えてるな?俺がお前たちに勝ったら、お前たちは俺の言いなりになる」

「ぐっ……好きにしろ!クソッ……」

「じゃあ早速だが命令だ。俺をお前たちのパーティーに()()()()()()()加えろ」

「ああいいだろう、お前を僕たちのパーティーに荷物持ちとして……は?」

「だって、そもそもお前たちはそのつもりで俺に声をかけたんだろ?俺もそれが性に合ってる」


 ザエたちは目を丸くしていた。


「いや待て、訳がわからん。あんな馬鹿げた力を持っておきながら何故荷物持ちに甘んじる?」

「まさか、何か良からぬことを企んでいるのではありませんか?」

「いや、そんなことは考えていない。特にキヨラについては純粋に結婚して欲しいと思っている」

「ヒィ〜〜〜!やっぱりこの人不審者です!」

「では何のつもりだ?例えお前が荷物持ちに情熱を注ぐ変人でも、その強さを無駄にしたくないとは思わないのか?」

「ああ、同感だ。僕の魔法をあんなにあっさりと模倣してしまうというのに」

「俺もあんなに強烈な一撃食らったの久しぶりだぞ。しかも気絶させられちまうとは」

「殺気……怖すぎます」


 ザエたちが口々に俺にツッコんでくる。どうやらそれほどまでに俺の強さは印象に残っているようだ。ならば、


「じゃあもう1つ条件をつけよう」

「条件だと?」


 実はこれが俺の目的の1つである。女神様が俺の力を残してくれると言ったときから考えていた。このままだと落ちぶれるならばいっそ……



「俺の弟子にならないか?」



 うん、勇者たち引いてる。もうここまで馬鹿げた提案だと笑えねえってか!


「おい、黙ってないで誰か答えろよ。はいかイエスぐらいは言えるだろ」

「それどっちみち弟子になるじゃないですか!」

「それにどういうことだ!何で俺たちが今日会ったばかりのてめえの弟子にならなきゃなんねえんだ?俺はてめえより先輩だぞ?」

「全くその通りだね。何でこの僕が君なんかに教えを乞わなきゃなんないんだい?」


 おやおや……こいつは不評だね。


「お前はどうなんだ?勇者サマ」


 ここは何故か黙りこくってる勇者の意見を伺おう。


「……1つ訊きたい」

「何だ?」

「あの時、僕たちと戦った時、僕に何をした?」


 なるほど、あの時俺がザエにどんな攻撃をしたのか気になるということか。


「何をと言われても……普通にブッタ斬っただけだが……」

「それだと僕は生きてねえだろ。何で僕は生きてる?」


 そうか、こいつらまだ大きな戦闘は経験してねえから体験したことねえのか。


「簡単だよ。斬ってから死ぬ前に回復魔法をかけて、上半身と下半身をくっつけたんだ」

「なっ……!」

「あ……あり得ません!回復魔法自体使い手は希少なのですよ!しかも私ですら斯様な芸当は不可能だと言うのに!」

「嘘じゃねえよ、ほら」


 そう言いながら俺は恐ろしく速い手刀で自分の片腕を切断する、と同時に回復魔法を発動して腕をくっつけた。


「どうだ?手刀の方はザエでなきゃ見逃してるだろうけど、回復魔法が使われたことぐらいはあんたにだって分かるだろ?」

「嘘でしょ……本当に回復魔法を……しかも無詠唱ですって⁉︎信じられない……」

「ザエ、説明はこんな感じでいいか?」

「ああ十分だ」


 そう言うと、ザエはキヨラたちを向いてこう言った。


「おい、このキシシカとかいう奴は今のを平然とやってのけやがったぞ。僕たちには到底できないことをだ」

「「「……」」」

「僕たちはこんなんで魔王を倒せるのか?いやそれ以前に、こんな奴に負けておきながらむざむざ旅を続けられるか?僕はごめんだね。勇者であるこの僕が、こんな一介の田舎者に負けて良いはずがない」

「……そうですね。私も不本意ではありますが、この者より優れた回復魔法の使い手とならなければいけません」

「ふん、僕がこんな奴に教えを乞うなど馬鹿馬鹿しいにも程があるが、僕の魔法を模倣して見せたのも事実。思考を深めるには丁度よさそうだ」

「ええい好きにしろ。俺はどうでもいい」


 それぞれ嫌々ながら承諾したって感じだな。


「お前たちに言いたいことがある」

「……何だ?」


 これは、俺がお前たちにずっと言いたかったことだ。お前たちが破滅した後も最強の冒険者として褒め称えられた俺が、ずっと思っていたことだ。


「俺は今のところお前たちよりずっと強い」

「何だ、自慢か?」

「まあ聞け。俺がここまで強くなれたのは……模倣したからなんだ」

「……どういうことです?」

「俺は昔、とある事情からある人たちの戦いをすぐ近くで見ていたんだ。そのときの俺はとても弱かった。それこそ荷物持ちしか出来ないくらいに」

「そうか。で?」

「それはまあ嫌がられたよ。『お前なんか荷物持ちしか出来ない役立たずだ』って言われてさ。それで思ったんだ、こいつらの役に立ちたいって。それからずっと観察し続けたんだ」

「……どういうことだ?」

「そいつらの戦いや魔法を注意深く見続けたんだ。どうやって使ってるか、どう練習したらいいのか、それを死ぬほど考えて、こっそり練習したよ。そんなことをしてたら……今みたいになった」

「……は?」


 そりゃ驚くだろうな。だが事実だ。



 俺はずっと、自分がもっと強ければザエたちの役に立てるのではないかと思って彼らの真似を続けた。パーティーを追放されてからもだ。そうするうちに、ザエの剣技を、キヨラの回復魔法を、サカシの魔法を、ネンズの力を、あるいはそれらと肩を並べるものを習得していた。


「でもな、所詮それは真似事に過ぎない。どれだけ強くても、それは結局『レプリカ』なんだ。俺は絶対に彼らを超えられない」

「……」

「ザエ、キヨラ、サカシ、ネンズ、あんたらは俺とは違う。勇者とその仲間たちだ。その肩書きに相応しい才能を持っている。だがな、才能だけで終わらせては駄目なんだ。それを使いこなすための努力と心が必要なんだ」

「……何が言いたい?」

「お前たちはまだまだ未熟だ。だがお前たちは俺なんかよりずっと多くの可能性を秘めている。だから、その可能性が死なないために、俺がお前たちを『真の勇者パーティー』にしてやる。俺とお前たちの約束だ」


 お前たちは真の勇者たちになれると信じている。1周目を見てきた俺が、2度とお前たちを堕落させない。


「……くだらんな。僕たちがまだ勇者の名に相応しくないとは」

「……」

「せいぜい好きなだけ僕たちを教えろ。いつか強くなって、僕たちが真の勇者だと認めさせてやる」

「……!ああ、期待してるぞ、ザエ」

「ふん、すぐに抜かされないように気をつけな、お師匠サマ」



 こうして俺は、勇者たちの師匠となった。



「あ、そうだ。キヨラ、俺と結婚したくなったらいつでも大歓迎だぞ」

「ぜーーーーーーーーーったい、ありえません!」

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