荷物持ちの力
俺と勇者パーティーとの決闘が始まった。
「先に仕掛けていいぞ!貴様の攻撃などどうせ効かないのだからな!」
ザエが自信満々に叫ぶ。うーん……それはダメだ。
そもそも俺がこの勝負を提案したのには2つ理由がある。1つ目は勿論彼らのパーティーに入れてもらうためだ。2つ目は、彼らの鼻をへし折るためだ。
今のあいつらは調子に乗りまくっている。そしてこのままだとその性格に拍車がかかってしまう。そこで俺があいつらをボコボコにしてやることで挫折というものを味わってもらうという寸法だ。
だが問題もある。俺が弱いというわけではない。逆だ。俺が強すぎるのだ。このままでは実力差を理解する間もなくあいつらを倒してしまう。そうなってしまってはあいつらは納得しないだろう。ではどうするべきか……よし、1人ずつコツコツと潰そう。
俺の装備は安物の剣と革製の防具のみ。これでもお金をコツコツ貯めて買ったのだが。対してあいつらの装備はどれも一級品。ザエの剣は王宮お抱えの職人によるオーダーメイド、サカシのローブはドラゴンの皮を素材にした超レア装備、その他諸々も1つ売れば一生遊んで暮らせる代物ばかりだ。故に俺の実力が装備に頼っていないと示せる。
俺はあえて剣を抜かず、その場にしゃがみ込み、地面を眺める。
「おいどうした?今更怖気付いたのか?」
そして地面目掛けて拳を振り下ろした。
その瞬間、衝撃波が、轟音が、粉塵が、闘技場全体に伝播した。まあ怪我人はいないだろう。一応この場の全員に、魔法で牆璧を張ってやった。
視界が晴れると、呆然とした様子でこちらを見つめるザエたちの姿があった。足元に視線を落とすと、俺を中心にクレーターが広がっていた。どうやら女神様は本当に1周目で培った力をそのままにしてくれているらしい。まあ信じてたけど。
「……………………」
「どうした?次はお前たちに攻撃するぞ。せめて陣形くらい整えたらどうだ。死ぬぞ」
ついでにかーーーるく殺気を飛ばしてみる。これには流石にザエたちも反応した。
「ハッ!お、お前ら、いつもの陣形でいくぞ!」
「わ、分かりました!」
「ハハハ、こいつは……」
「とんでもない化け物だね」
どうやらやる気になってくれたようだな。では、
「いくぞ!」
俺は剣を引き抜き、ザエたちと対峙する。対するザエたちだが、前衛をザエとネンズが務め、後方からサカシとキヨラでサポートという形をとっている。うむ、妥当だ。俺でもその陣形を薦める。
「はああああ!」
俺は迷わずネンズに突っ込んだ。
「来るなら来い!全て防いでやる!」
「じゃあ遠慮なく!」
ネンズの武器は両手持ちのバトルアックス。それを使って俺の剣を受け止め、その隙にザエが攻撃するつもりだろう。ならば簡単な話だ。受け止めさせなければいい。
「おらぁっ!」
俺の剣とネンズのバトルアックスの柄がぶつかり、そしてネンズのバトルアックスが真っ二つに切れた。
「何だと⁉︎」
「まだまだぁ!うらぁっ!」
「ぐふっ⁉︎」
ネンズの横腹に剣を持っていない左手で裏拳を打ち込む。ネンズは横に吹っ飛び、闘技場の壁に叩きつけられた。
「ネンズ!」
ザエがたまらず声をかけるが反応はない。
「気絶したか。次は……」
「ガイア・ハンド!」
俺の左右の地面が隆起したかと思うと、それは巨大な手となり俺をガッチリと掴んだ。
「どうだ!これなら動けまい!」
やっぱりサカシか。相変わらずとんでもない威力の魔法だな。にしても地面隆起させるなよ。整備に時間かかるだろ。職員の苦労考えろ。
「でかしたサカシ!キヨラ、今のうちにネンズの回復を!俺はこいつを倒す!」
「分かりました!」
うんうん、まともに指示出せてるじゃないか。1周目だと最後はまともに会話すら出来てなかったからな。こいつは嬉しい。
「だけど、まだ未熟だな。ふん!」
俺は全身に力を込め、俺を掴んでいた腕を粉砕した。これならもう動くまい。
「嘘だろ!またしても僕の魔法が……」
「さっきのお返しだ。グラビトン・インクリース・レプリカ!」
「なっ……ぐあ!」
俺が使ったのはさっきサカシが俺に使った魔法の真似事だ。サカシも言っていたが、普通ならその重さでまともに動けなくなる。
「さて、後は……」
こちらの様子に気づかずネンズの元に駆け寄るキヨラ。あちらから片付けるか。
「背中向けちゃ駄目だよ。危ないからね」
「ヒィッ!」
俺は一瞬でキヨラに追いついた。そして今度はさっきよりも強めに殺気を飛ばしてみる。
「これでお終い」
「イヤァーーー!……」
悲鳴の直後、気絶した。弱いな。
俺はキヨラを片手で支えると、優しく地面に寝かしてやった。うん、怪我なし。
「あとはお前か」
「なっ!」
「行くぞ!」
俺は急速に距離を詰め、ザエと鍔迫り合いを始める。互いの剣から火花が散っている。
「ぐぬぬぬぬ……何だこの馬鹿力は⁉︎」
「え?まだ本気じゃないぞ?」
「何だと⁉︎」
「見たきゃ見せてやるよ。俺の本気の一撃を」
俺は即座に後方に跳躍してザエと距離を取る。一度剣を鞘に戻すと、少し腰を落として構える。ザエは何事かと警戒している。
俺は息を整え、剣を抜き放つ。
「城壁崩壊・レプリカ」
俺の剣から放たれた斬撃がザエに食らいつく。ザエは剣で受け止めようとするが、斬撃は剣を、そしてザエの胴体すらも切り裂いて闘技場の壁に衝突した。
「「「うわーーー!」」」
あまりの轟音と衝撃に観客たちはたまらず姿勢を低くした。
しばらく経ってから観客たちが立ち上がり、闘技場に目を向ける。
「おい、あれ」
そこにいたのは、刀身が粉々になってもはや持ち手のみとなった剣を持ち、魂が抜けたかのように動かずにいるザエだった。
「おっちゃん、判定」
もう勝負はついた。俺はおっちゃんに早く判定を下すよう催促する。
「お、おう……ざ、ザエ、サカシ、ネンズ、キヨラ戦闘不能。き、キシシカの勝利ーーー!」
「「「…………う、うおおおーーーー!」」」
少し間を置いて、大歓声が会場を満たす。
「嘘だろ⁉︎キシシカの奴勇者様たちに勝っちまったぞ!しかも4対1だぞ?」
「信じらんねえ。あれ本当にキシシカか⁉︎」
「最後の斬撃見たか?何だよあの威力?」
「な……何が……何が起きた?」
ようやくザエが喋る。生きてるみたいだな。
「無事みたいだな。俺の勝ちだ」
その宣言を聞いて、ザエは膝から崩れ落ちる。こうして俺と勇者パーティーの戦いは、俺の圧勝で幕を閉じたのだった。
追放される前から勇者たち叩きのめしなさんなや……