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勇者パーティー

 気がつくと、俺はある町の真ん中に立っていた。自分の手を確認すると、シワ1つ無い若々しい肌だった。


「本当に戻ったのか」


 自分の喉を通って出てきたのはは老人のしわがれた声ではなく、若々しい青年の声だった。



 間違いない、女神様は本当に俺を過去に戻してくれたんだ。俺の要望通りなら、俺は今18歳のはず。俺が今いるのはおそらくオボユの町だろう。俺が生まれ育った町であり、この町で俺は冒険者を始めた。

そしてもうすぐ……


「おい、そこの小僧」


 懐かしく生意気な青年の声がした。そこにいたのは、端正な顔立ちでありながら、どこか他人を馬鹿にしたような態度でこちらを見つめる青年だった。

 彼こそ、かつて(1周目の人生とでも呼ぼう)俺を追放した人物、勇者ザエである。剣術に天賦の才があり、魔物の王すなわち魔王を討つべく国王から勇者の称号を授けられた。


 つーか小僧って……同い年だろ……。


「おい、黙ってないで返事ぐらいしたらどうだ?」

「あ、すまない。えっと、俺に何か用か?」

「生意気な口を聞くな」

「ふん、目上の相手への口の聞き方すら分からないとは。これだから無知な人間は」


 ザエの隣に立つ眼鏡の青年は賢者サカシ。俺とザエより7つ年上の25歳で魔法使いだ。あらゆる魔法を使いこなし、賢者の異名で知られている。


「随分弱そうだな。こんなのが役に立つのか?」


 そう言うのは戦士ネンズ。37歳でパーティーの年長者。恵まれた体格と衰えを感じさせないパワー、そして豊富な経験を活かし、戦闘では壁役として活躍している。その様子から人々からは鉄壁と呼ばれている。


「貴様、名は何という?」

「俺はキシシカ。冒険者だ。とはいえまだまだ駆け出しだがな」

「そうか。僕の名はザエ。勇者と呼ばれている。貴様でも聞いたことはあるだろう」


 いや、聞いたことがあるどころではないのだが。


「まあな」

「ほぅ、案外驚かないのだがな」

「まさか、びっくりだよ」


 死人に会えてるんだから。


「ちっ、生意気なやつだ。まあいい、貴様にいい話がある。特別にこの僕のパーティーに荷物持ちとして加えてやろう。どうだ?」

「ああ、やろう。勿論だ」


 俺はニヤリとしながら答える。計画通りだ。まずはこいつらのパーティーに加わらないことには始まらない。


「そうか、では決まりだ。ああそうそう、あと1人僕たちの仲間がいる。今近くの教会に寄っているはずだが……」

「遅れて申し訳ありません、皆さん」


 この世のものとは思えないくらい美しい声がする。


「ふん、随分信仰心が厚いようだな」

「当然です。魔王討伐のために神の御加護は欠かせませんから」


 そこにいたのは、動きやすいタイプの神官服に身を包み、美しい金髪をたなびかせる美少女であった。彼女こそ聖女キヨラ。15歳にして世界一とも称される回復魔法の使い手であり、信仰心に厚いその様子から聖女と呼ばれている。俺が1周目から密かに想いを寄せていた人物だ。



「結婚してください!」



 気がつくと俺は土下座をしながらキヨラにプロポーズしていた。





「皆さん、あいつずっとついてきますよ」

「放っておけ。反応すれば相手の思うつぼだ」

「全く……無知な人間の考えることは分からん。魔法の真髄を理解することの方が簡単だね」

「ちっ、うぜえガキだ」


「おーい、待ってくれー!」


 あのあと、俺は断られた。え?荷物持ちとプロポーズのどっちをだって?どっちもだよ、悪いか!

 だがここであいつらを野放しにする訳にはいかない。今のままではあいつらはパーティーとして碌に働かないんだ。もしかしたら始めから俺が関わらなければむしろ成長するかもしれんが、そんなリスキーな手段は選べない。そもそもそうしたらキヨラと離れ離れだろうが!


 というわけで、俺はザエたちの後をついて行っていた。流石に我慢の限界なのか、ザエが振り返った。


「おい貴様!迷惑だ、いい加減どっか行け!」

「断る!」

「何故だ!」

「そうしたらキヨラにお近づきになれないからに決まってるだろ!」

「キャー!不審者です!ストーカーです!神よ、この者に裁きを!」


 ぐへへへへ、残念ながらその神様に認められたからこうして2周目を過ごしてんだよ。


「ええい面倒な奴だ。おいサカシ!お前の魔法でどうにか出来ないのか?」

「全く、僕は便利屋ではないのだよ。まあその程度造作もないが」

「いいから早くやれ!」

「分かったよ。グラビトン・インクリース!」


 瞬間、俺の体が急激に重くなった。間違いなくサカシの魔法だ。やはり魔法の才能はピカイチ、賢者の名にふさわしい。


「だが待てー!」

「な、何故だ⁉︎僕の魔法が効いてないだと⁉︎」

「効いてるわ!全身がめっちゃ重いわ!」

「普通は動けんだろ!何故普通に歩けている?」

「鍛えているからだ!」

「その程度で僕の魔法を突破するなー!」




 そうやってザエたちの後を追いかけること十数分。ようやく連中が観念して立ち止まった。


「おい貴様、何度も言うがパーティーには加えん。とっとと去れ!」


 どうやら意地でも俺を遠ざけたいらしい。何故そんなに嫌われているのだろう?まだ会ったばかりじゃないか。


 まあいい、それならこっちにも考えがある。


「じゃあ勝負しないか?」

「何だと?」

「簡単だよ。俺とお前()()で戦うんだ。俺が勝ったらお前たちは俺の言いなりになる。俺が負けたら2度とお前たちに近づかない」

「ま、まさか、負けたら無理やり結婚を迫る気では……!」

「いや、それは俺のポリシーに反する。君には心の底から俺を好きになってもらった上で結婚して欲しい」

「そ、そうですか。最低限の倫理観はあるようですね。不審者には変わりありませんが」

「安心しろキヨラ、僕がこんな新人に負けるはずなど無い。僕は勇者だぞ」


 おや、もしかして1対1(タイマン)で俺と戦闘()る気か?


「何か勘違いしてないか?俺はお前()()と戦うと言ったんだぞ。全員まとめてかかってこい」


 俺は自信満々に言い放つ。ザエたちの反応は


「……フフフフフ、ハハハハハ!こりゃ傑作だ。ここまで命知らずな連中は見たことないぞ!いいだろう、せいぜい死んで地獄に落ちても僕たちを選ばないことだな」


 このままじゃお前たちが地獄に落ちるんだよ。


「てめえら、せいぜいこいつを叩きのめすとしよう。こんなサンドバッグ滅多にいないぞ」

「フン、野蛮だな。まあ僕の魔法でその生意気な口を黙らせてやるとしよう」

「ルーキー潰しか、楽しそうだな」

「これでこの不審者ともお別れです」


 こうして俺は勇者たちと戦うこととなった。




 俺たちは今ギルドの地下闘技場に来ていた。


 ギルドとは冒険者が所属する組織のことだ。依頼の仲介・斡旋などを行ってくれる。この地下闘技場は先輩冒険者が後輩の訓練に使ったり、俺たちのような決闘を娯楽として住人が楽しむために使われている。昔は殺し合いもしていたようだが、今は法律で禁止されている。



「すごい人だかりだな」


 ザエの感想も分かる。確か彼らはこの町に来たばかりだった筈だ。きっと知らなかったのだろう。


「キシシカ、頑張れーーー!」

「頑張れよ!勝ったらウチの料理タダで食わせてやるからな!無理だと思うけどーーー!」

「キシシカー!怪我なら治してあげるから死なないように頑張ってねー!」


 俺はこの町の住人のほとんどと顔見知りなのだ。

 にしてもみんな応援してくれるのはいいけど、俺の勝利を諦めてないか?


「おい、今だったら特別に謝ったら済ましてやってもいいんだぞ?」

「まさか、俺は勝つ気満々さ」

「よかろう。だったらボロボロになるまで叩きのめしてやる」

「望むところだ!おっちゃん、決闘開始の宣言をしてくれ!」

「おう、まかしとけ!」


審判のおっちゃんが元気よく答える。ちなみに彼はこの町で活動する冒険者で、俺も1周目ではお世話になった。


「勝負はどちらかの戦闘不能もしくは降参まで。ではーー勝負開始ィーーー!」


 俺と勇者パーティーの決闘が始まった。

ラストのキシシカとおっちゃんのやりとり、どこかのカードゲーム漫画で見たような気が……

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