荷物持ち、1周目の後悔
「お前などこのパーティーに不要だ、出て行け!」
その言葉は今でもよく覚えている。あれは間違いなく俺の人生の転機ともいえる瞬間だった。
俺の名前はキシシカ。勇者のパーティーで荷物持ちとして働いていたが、役立たずと言われ追放されてしまった。彼ら曰く、戦闘で活躍している彼らと違って雑用係でしかない俺などパーティーにはいらないとのこと。
パーティーを追放された俺は心機一転、ただの冒険者として暮らしていくことにした。だがしかし、この時から俺の才能は開花した。魔物との戦いでも連戦連勝!たちまち王国1の冒険者として英雄並みの扱いを受けるようになった。
一方俺を追放した勇者パーティーは無残の一言だった。雑用を一手に引き受けていた俺がいなくなったことでパーティーの連携が崩壊し、彼ら自身も落ちぶれていった。
かつて一度勇者が俺を訪ねてきて、
「お願いだ!戻ってきてくれ!」
と泣いてお願いしてきたことがあったが、あまりにも見苦しかったので
「もう遅い」
と断ってしまった。
それから彼らはどんどん堕落していき、最終的に国家反逆の罪で全員処刑された。ここまでが俺が20歳になるまでの出来事。
さて一方の俺は先程も言ったように英雄として扱われるようになった。そして充実した人生を送り、100歳で大往生を果たしたのだった。
「もっしもーし!聞こえますかー?」
優しい女性の声で目を覚ました。そこには何も無く、ただ真っ白な空間が続いているだけだった。
「あ、やっと起きた」
声のする方へ振り返ると、そこには金髪の美しい女性がいた。20代くらいだろうか?
「いやだな〜。そんなに若くないですよ〜」
なんだか嬉しそうだ。ん?俺は今彼女の容姿について口に出して喋ったか?
「ああ、心の声なら聞こえてますよ」
な、何⁉︎この人一体何者なんだ?
「私はあなたたちが神と呼ぶ存在の1柱です」
「か……神……様?」
「ええ神様です。あ、でも、女神様って呼んでもらえたら嬉しいですね」
「えっと……女神様?」
「はい、女神様です」
ニコリと笑って答える女神様。
「あの、ここは一体……?」
「ここは所謂死後の世界というやつです。ここで死者の魂が天国行きか地獄行きかを決定します」
なるほど。そういえば俺は死んだんだったな。では大人しく審判を受けるとしよう。
「ええ、お望みどおり審判を下します。キシシカよ、あなたは天国行きです」
「……そうですか」
「はい。あなたは冒険者として邪悪な魔物から人々を守り、その生涯を清く正しく全うしました。文句なしの天国行きです」
「……ありがとうございます」
「ふふふ、これすっごくいいお知らせのはずなのにあんまり嬉しそうじゃないですね」
「まさか、すげえ嬉しいですよ」
「おやおや、女神に嘘はつけませんよ」
なんだ、やっぱりお見通しじゃないか。
「ええ分かっていますよ。ずばり、あなたにはやり残したことがありますね?」
女神様は俺をビシッと指差した。そう、俺には生前やり残したことがある。それは、勇者たちのことだ。
もっと俺が上手く立ち回っていたら、あの時パーティーに戻っていてやれば、彼らは罪人にならずに済んだかもしれない。そうすれば流れる血も減ったかもしれない。生前何度も後悔したものだ。
「あいつらは……どうなったんです?」
「どうしようもない連中だったので全員地獄行きとなりました。ちなみにその後は生まれ変わりさせず、そのまま魂を消滅させました」
淡々と述べる女神様。その言葉に俺は絶望した。
「後悔していますか?」
「そりゃそうです。あんな奴らでも俺にとっては仲間だったんです。それに……」
「好きな人がいた、そうですね?」
「はい。女神様、俺は天国に行けるような人間じゃありません。今こうしてあいつらのことを話しているのも単に好きな女がいたからで、あいつがいなかったらとっくにあのパーティーのことなんか忘れていたかもしれません。俺は……あいつらの後を追うべきなんです。地獄に落としてください」
これは紛れもなく本心だった。この後悔は、あいつへの未練は、生涯俺を苦しめ続けた。冒険者として人を助け続けたのも、あいつらの事を忘れようとしていたからかもしれない。
「ふふ、正直でよろしい。あなたの願いはよーく分かりました」
「それじゃ……」
「でも地獄行きは却下です。」
「……え?」
「だってそれでもあなたが善人であることに変わりはありませんから。地獄行きなんて出来ませんよ」
「で、でも、俺1人天国に行ったって……」
「じゃあ1つ提案です」
「提案?」
「はい。ずばり、タイムリープしませんか?」
タ、タイムリープ?何だそれは?
「時間を遡るということです。あなたの記憶はそのままにして、過去へ戻って人生をやり直してもらいます」
「過去へ?」
「はいそうです。そうすればあなたが後悔している全てを取り戻すことができるかもしれませんよ。これはあなたの生前の功績に報いるためのご褒美です。どうです?このチャンスを使いますか?」
願ってもない提案だった。答えなど自明だ。
「もちろんです!そのチャンス、使わせて下さい!」
「ええ、そう言うと思ってました」
女神様は相変わらず笑顔で答える。
「ではいつ頃まで戻りましょうか?何か希望があったら叶えてあげますよ」
「……それなら、あいつらと出会った日まで戻りたいです。あの日からならやり直してみせます」
「はい、分かりました。あともう1つ」
「?」
「あなたが前世で培った力や魔法、身体能力などは引き継がせてあげます。その方がいいでしょう?」
「え、いいんですか⁉︎」
「はい、私は優しいので」
自分で言ってしまうのか……。
「むっ、失礼ですね」
「ああっ、ええっと、ごめんなさい!」
「ふふっ、冗談です。では早速タイムリープの準備に取り掛かりましょう。善は急げです」
「はい、よろしくお願いします」
次の瞬間、俺の意識が遠くなっていく。どこかをふわふわと浮かんでいるようだ。
「それでは、良い2周目を」
それが俺が覚えている限りの最後の言葉だ。そうして俺の意識は完全に途切れた。
新連載、よろしくお願いします!