地球資源保護法~web発の駄作ラノベが駆逐される日~
20XX年 某所にて
真夏の日中、冷房の効いた部屋の中でキーボードの音だけが響いていた。突如としてインターホンの音が鳴り部屋の主、○○は誰が来たのか確かめた。カメラ越しに映っていたのは暑い中スーツをきっちり着こなした若い男と上着をわきに抱えネクタイを緩めている初老の男であった。
「はい、どちら様でしょうか?」
「○○さんですね?私はAA県警の△△と◇◇です。あなたには逮捕令状が出されています。ドアを開けてください。」
△△と名乗った若い男の発言に混乱しながらも警察手帳を見せられたためにいたずら扱いするわけにもいかずドアを開けた。うだるような暑さが彼を迎えた。
「逮捕って…どういうことですか⁉」
「○○さん、あなたは普段小説を執筆して生活していますよね?実はあなたの書いた小説が地球資源保護法の紙資源の消費過多にあたるとみなされたんです。」
○○はますます混乱した。確かに先日にその法案が成立したのは彼も知っていた。しかしあれは製造業で発生する廃棄物を減らすために、そもそも原材料を使い過ぎないようにしよう、という法律である。なぜそれが自分に?と困惑する彼に◇◇が口を開いた。
「いやー○○さん、あなたの小説には倫理的、道徳的にまずい描写が多数あるじゃないですか。他にも他作品からの文章の盗用やそのまんま持ってくる、コピー&ペーストでしたっけ?なんて事とかが問題扱いされたわけですよ。そんな書物のために紙資源を消費するのは駄目だというわけでして」
「そんな理由で?おかしいですよ!それだったら他の人たちだって、だいたい自分は盗用もコピペもしていない‼」
「それがですねーあなたの担当編集者さん、丸皮の▼▼さんですね、彼が認めたんですよ。あなたの盗用とコピーペーをほぼ全面的にね。」
○○は自分もよく知る人間の裏切りそのものの行為を知り愕然とした。
「え?…だ、だからって逮捕なんて、そもそも地球資源保護法でなんて」
「通常ではこのような逮捕は考えられません。しかし今回はあなたの小説の発行部数の多さとレベルの低さがあまりにも乖離していたからこそ起こったのです。」
「なんだと‼僕の作品はみんなに愛されているんだ!だから売れているんだ!それなのにレベルが低い?侮辱だ、侮辱だぞ、僕と僕のファンのみんなに対しての侮辱だ!撤回しろ‼」
「しかしですね○○さん、あなた自分の出版物の売り上げを水増ししてますよね?」
「は?」
「先月発売されたあなたの新刊ですがなかなか売れているみたいですね。さぞ面白いのでしょう。あなた本人が100冊近く購入しているのですから。しかもあなたの小説家としての関係者たちにも買うように強要していたとか。▼▼さんが捜査に協力してくれたのもこれが原因だったみたいですね。彼は親族まで巻き込まれかけたのですから当然ですね。」
「いや、それは…も、妄想だ。▼▼が適当なことを言っているんだ!」
「実はですねーそれ以外の方たちからも同様の証言が多数寄せられていまして」
「嘘つきだみんなみんな嘘つきだ!」
ついに癇癪を起こした○○に対しあらかじめ彼の人となりを聞かされていた二人は冷静だった。
「では彼らが嘘つきだということを証明するためにご同行をお願いします。」
「…わかりました。」
(僕を裏切ったあいつらに報いを与えてやる)
その後、○○を署に送り届けた△△と◇◇は次の現場に向かうべく車を走らせていた。◇◇は捜査資料と称して購入した○○の小説を読みながら運転中の△△に話しかけた。
「いやー惜しいよな。この、どんな傷も完全に治せるがその度に傷の痛みに襲われる、って設定はしっかりと煮詰めたらそれで面白いのが書けそうなのにほとんど機能しなくなったからな。例えば最初は善意でやっていたけど段々と狂気に呑まれていくとか。」
「◇◇さんはそういうの好きですね。悪堕ちとかそういう感じの。」
△△は呆れた顔をしながらも返事をした。
「いやいや、一度闇に落ちてからもう一度光に向かっていくのがいいんだよ。」
「じゃあそういうのを自分で作ればいいじゃないですか。そのための小説投稿サイトですよ。そういえば○○も元々はそこで活動していたみたいです。始まりは小説家になった気分を疑似的に体験するためのサイトだったみたいですが○○みたいなのが集まる場へと様変わりしたようです。お金は人を狂わせますね。」
◇◇は読み終わった本を後部座席に投げシートを倒した。
「次はどんな奴が相手だった?あの法案のせいで何人かの作家を捕まえなくちゃならん。ひょっとして出版業に圧をかけるための法律じゃないのか?あれ。」
「そうかもしれませんね。次はモンスターの肉を食べるだけでパワーアップするキャラが主人公の作品を書いている人ですね。自分も読みましたがあまり面白くなかったです。」
「そういう漫画知ってるぞ。あれ好きだったんだが。趣味に合わないか?」
「いえ、その漫画は自分も知っていますし全巻揃えています。ただ、食べるために費やした苦労とパワーアップが釣り合っていないんですよね。コンビニで買った食パン食べたらフルマラソン走れるようになった!みたいな。」
「楽してパワーアップか。もしかしたら彼らにとって小説は楽して金を稼ぐための道具でしかないのかもな。」
そういう連中を減らせるのならば地球資源保護法のこういう使い方もありかもな、と考えながら目を閉じた。
初めまして松杉ヒノキと申します。
この度は
小説家になろうにおいて日頃からぼんやりと考えたりした妄想を
作品という形にしたいな、との思いから練習がてら作ってみた。
そんなものを最後まで読んでいただいたことに感謝の念が絶えません。
さて今後どのような作品を書くのかについては全くの未定です。
なのでこれ以外で私の名前の作品がありましたら軽い気持ちで
覗いてもらえたら幸いに存じます。
ではまた!