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李家の若奥様

作者: なつ

 中国茶や中国ドラマが好きで、頑張って書いてみました。

 初投稿です。よろしくお願い致します。

 木々の梢が緑を一層色濃くし夏の日差しが強く長くなりつつある、そんな一日(いちじつ)


 李家の一室では、つい先日輿入れしたばかりの若奥様が無聊(ぶりょう)(かこ)っていた。



「旦那様に嫌われてしまったようだわ」



 若奥様はふっくらとした唇に人差し指を添え、そっと呟いた。


 重箱の中身を確認していた侍女の手がかすかに(とどこお)る。


 侍女の(いら)えはない。


 若奥様は指甲套(つけづめ)を嵌めていない三本の指で器用に茶碗の蓋をつぅっとつまみ、蓋裏から漂う初々しい香りを堪能した。

 茶器は卵の殻にも例えられる薄胎(はくたい)

 絶妙に反り返った白地の碗には繊細な若竹の模様が浮き上がっている。



「あぁ、いい香り」



 緑がかった淡い黄金色の海の底、翡翠の新芽が揺蕩(たゆた)う。

 茶托を持ち顔に近づけ愛おし気に眺める様子は、彼女を少し幼くみせた。



「困ったわ……」



 と言うも、まったく困っているように見えない。


 我関せずと侍女は準備を再開した。


 重箱は吉祥紋を施された網代(あじろ)竹彫細工の三段重。

 その中身を確認しながら、手際よく取り分けていく。

 青白磁の小皿に小ぶりな花巻。牡丹の花が大胆に彫られ、釉薬の濃淡が水面を思わせる。その涼やかな青にふくふくとした花巻の白がよく映える。



「どうしましょう、ねぇ……」



 水晶の飾りが揺れる簾越し、花棚から漂う薔薇(そうび)の香りに身を委ねつつ若奥様はうっそりと独りごちるのであった。

 清朝の高貴な女性は爪を伸ばし、伸ばした爪を指甲套(ジージャオタオ)と呼ばれる装飾品で保護したそうです。金銀、宝石をちりばめたものなど様々な指甲套があり、とても見ごたえがあります。作中では雰囲気を優先し、爪カバーではなく「つけづめ」とさせていただきました。


 ちなみに若奥様の指甲套は銀線で七宝柄を編んだもので、指元に蝙蝠、そこに点翠(翡翠の羽毛を使った細工)を施し、紅玉をあしらったものになります。


 茶器は蓋碗(ガイワン)。日本の蓋付き碗と違い碗の中に蓋が入り、ひとりで飲む時には蓋で茶葉を避けながらお茶をいただきます。別名、三才碗もしくは三才杯とも呼ばれ、蓋を天、皿を地、碗を人として天地人が和するという意味があるそうです。

 作中にある碗の竹模様は浮き彫りと言われるものです。


 お茶は龍井茶と言う中国では一般的な緑茶を想定しています。

 お茶の水色(すいしょく)を楽しめるように白磁の茶器を選んだと言う設定になります。


 ご存じの方もいると思いますが、花巻は白い中華蒸しパンです。


 晩唐の武人であり詩人でもある高駢(こうべん)の漢詩「山亭夏日」を元にお茶を楽しむ清代の貴婦人を描いてみました。


 なんちゃって知識なので、間違いもあるかと思います。

 ご教授いただければ幸いです。

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