オカ研結成①
五月某日、僕は高校のオカルト研究部に入部した。ことの発端は五日前に遡る。
「頼むよっ!君だけがっ、君だけが頼りなんだっ!」
僕は右手に揚げパン、左手に彼女の力のこもった手を持ちながら混乱していた。ほとんど初対面の相手にいきなり親しげに話しかけられたら、混乱しない人はいない。
「とりあえず手を放してください。変な噂がたちますよ?」
「嫌だっ!OKを貰うまで放さない!」
そう言って、彼女はさらに強い力で僕の手を握った。言動も見た目も、いかにもおてんば少女らしい。
「まず僕は何に誘われているんですか?」
この女、最初から勢いだけで物事を進めようとして、内容が一切無い。そして彼女はキョトンとしてこう言った。
「オカ研だけど?」
「嫌です!」
「何でだよー!良いじゃないか!」
ここで“嫌だ”と断言したのにはちゃんとした理由がある。僕の家系は代々、霊媒とかそういうスピリチュアルなことを専門にしてきた。だが、それも祖母の代までで、両親は普通の会社に勤めている。
しかしその祖母が問題で、まだ幼い僕に“いいかい空太、こんなことがあったら気をつけなさい”と言っては、必ず自身が経験した怪異譚を語ってくるのだ。おかげで物心つく頃には、すっかりオカルトに好き好んで関わろうなんて気はなくなっていた。
「わかりました。少し考える時間をください。」
空腹もあり、すっかり面倒になってしまった僕は、この事態の収束を未来の僕に任せることにした。
「前向きな検討ありがとう!また来るよ!」
そう言うと、彼女はすぐさま次のスカウトに取りかかった。僕の断り文句をまるで理解していない様子でだ。
それからは、特に何もない一日だった。僕は部活には入っていないので、入部を断る理由に悩まされた。
その日の夜、祖母と夕食を食べている時に、ふと昼の出来事を思いだし、会話の種にしてみた。
「そういえばさ、今日“オカルト研究部に入らないか?”って言われたんだよ。」
「へぇ、そうかい。」
この意地悪婆さんのような人は、いつも興味が無さそうにこの言葉で会話を締めくくる。
が、今回は違った。
「空太は入る気はあるのかい?」
「いや、まったく。婆ちゃんみたいに本気でやってる訳でもなさそうだし。」
「なら、なおさらだ。入りなさい。」
「は?なんで?」
「そういう半端者が一番危ないんだ。空太が危険だと思ったらすぐに止めてやりなさい。それと、すぐにあたしに言いなさい。」
事実、そういう半端者達がよく祖母を訪ねて来ることを僕は知っている。
「でもそれは自己責任だろ?」
「被害が出る前に解決するに越したことはないよ。あたしの仕事も増えるしね。」
ぐうの音も出なかった。しかし、この言葉にはまだ強制力は無い。黙っていればそのうち忘れるだろうと思っていた。
「ちなみに、空太の財布の紐はあたしが持っているようなものだからね。」
僕はなぜこんな話をしたのだろうと深く後悔した。
翌朝、例の少女は待ってましたと言わんばかりの満面の笑みで、教室に入ろうとする僕に近寄ってきた。
「ねぇ!OK?OK?」
「あぁ、OK……」
僕は渋々と返事をした。
「ヤッター!んじゃ、放課後1-2教室で!」
そう言い残して、嵐は去って行った。