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3.夜中に同業者にあったので、挨拶してみた

2000年4月の事件以降、類似の事件や巨大な異常生物の目撃報告が日本各地、のみならず世界各国で散発的に発生した。


報告に上がる異形達は、ネズミなどの哺乳類のみならず、鳥類や爬虫類など多岐にわたり、中にはファンタジー世界から飛び出したかのような、地球上に類を見ないものもいくつか発見されたが、彼らは1匹の例外なく通常より大きな身体を持ち、人間に敵対的だった。


しかしもちろん、ただ巨大で凶暴なだけの生物など地球上では珍しいものではなく、その数や程度が多少増えたところで、人間の脅威とはなり得ない。


何より彼らを脅威たらしめる一番の特徴は、その異常なまでの強靭さだった。



麻酔銃の針やナイフなどの刃物はもちろん、拳銃、散弾銃ですら傷一つ付けられない。


それどころか、火炎、爆弾、ガスなど、市街地で使用できるあらゆる兵器について、全く効果が無かった。


また、捕獲用の罠や鉄製の檻程度であれば楽々引きちぎるほどの膂力があり、武装した軍隊ですら有効な対処ができず、数こそ少ないものの、日に日に被害は広がっていった。



幸いなことに、彼らは人間を察知するまでは通常の動物とそれほど違った行動はとらず、また車や建物の中に侵入することは非常にまれであった。


そのため人間は次第に、息をひそめ、物陰に身を潜めて暮らすようになった。


生きるために、捕食されないために、恐怖におびえて。




この時から人間は、地球の支配者ではなくなった。




そして、最初の事件から約2年後、全人類が待ち望んだ吉報が世界中を駆け巡る。



個人によるモンスターの討伐に成功。



能力者の誕生である。




------




今日も今日とて、人気のない夜の街を徘徊する。


仕事(狩り)の時間だ。



最近では、街の防壁や地下道、軍の警備の影響もあり、昼間は比較的安全に出歩けるようになった。


しかし、夜は基本的にはあらゆる活動を自粛、軍の警備も最低限に抑えられる。


この時間、何らかの事情で外出した一般人が、運悪くモンスターに出会ってしまった場合、ほぼ確実にモンスターに襲われ死亡することになるため、俺はあえて人気のないこの時間にパトロールを兼ねて仕事をするようになった。


車もなく、また、この時間には公共交通機関もほぼ止まっているため、見回りするのは自宅の近所のみ。


ルートもほとんど決まっている。


基本的には街中や太い道路を中心に、出来るだけ広い範囲を見回り、時間があれば、モンスターの住処となりやすい山や森、郊外の廃墟などを見て回る。


能力に目覚めてからはモンスターの気配のようなものをある程度遠くから感じ取れるようになったため、それぞれの場所を注意深く見て回る必要はなく、できるだけ広い範囲をうろうろする。


幸いなことに、今日はモンスターに襲われている人は見かけていない。


物陰に隠れていたネズミ型のモンスターを2匹ほど討伐しただけだ。


時間もまだ少し早いし、今日は山の方まで足を延ばして、昨日リクエストのあった虫系のモンスターを狩りに行こう。


時期的に、ソフトボールくらいの大きさの蚊っぽいモンスターが出始めるころだ。


大量発生するとそれなりに厄介なモンスターなので、今のうちにある程度数を減らしておきたい。



………


……




「ん?」



山からの帰り道、買取屋に向かう途中で、遠くの方からモンスターの気配を感じる。


近くには何人か能力者と思しき人の気配も感じるため、おそらく通報を受けた軍関係者が徘徊中のモンスターでも駆除しているのだろう。


近寄ってトラブルに巻き込まれるのも困るし、ほっといても問題なさそうなのだが、万が一のことを考えると様子ぐらい見ておいた方がいい。


走って近くまで寄ってみる。



………


……




(ふむ、フォローは必要なさそうだな。)



ようやく目視できる場所まで来た。


どうやら思った通り、軍の構成員3名が体高1.5mほどの猫型モンスターと交戦している。


一人は引きつけ役だろう、大きなバットのようなものでモンスターの攻撃を受け流しながら、スキをついて殴りかかっている。


そしてもう一人の削り役が、ソフトボールくらいの鉄球をモンスターめがけてぶん投げている。


典型的な「棒」と「球」の能力者、軍関係者で良くみられる構成だ。



「ニャァーーー………」



モンスターはすでにフラフラと動きが悪く、とどめまでそう時間はかからないだろう。


いくつか頭部にもヒットしているみたいだ。




そして、最後の一人はというと、



(お、スマホ女子)



見た目10代後半だと思しき女の子が、サイドカー付きの自転車の近くでスマホを見ていた。


横持ちしているので、もしかしたら動画でも見ているのかもしれない。


服装を見るに軍関係者だと思うが、行動は完全に時間をつぶしてる学生だ。



「ども。大丈夫ですか?」



念のため、声を掛ける。


実は彼女とは何度か夜中に遭遇したことがある。


メンバーは毎回違うみたいなので、彼女は戦闘員と組む支援係みたいなものなのだろう。



「どもです。


たぶん大丈夫っすよ。


むしろ、絡まれると面倒なんで、行っちゃってください」



「了解。んじゃ」



アドバイスにしたがい、さっさと退散する。


討伐が終わったのか、後ろの方でやいのやいの言っている声がかすかに聞こえるが、振り向かずにそのまま走りさる。


さっさと獲物を買い取ってもらって、自室に戻ろう。


今日は珍しい蝶型のモンスターの撮影に成功している。


羽が2mくらいあるでかい奴だったので、インパクトは大きいはず。


昨日のオープニングムービーの完成も相まって、もしかしたら初のチャンネル登録者もあるかもしれない。


俺は逸る気持ちを抑えつつ、家路を急いだ。

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