2.モンスターの買取をお願いしてみた。結果…
2000年4月某日、長野県某市の民家で夫婦とみられる住民2人が死亡しているのが見つかった。
家の中は荒らされたように物が散乱しており、被害者の身体はあちこちかみちぎられたような跡があることから、何らかの大型の野生動物によるものではないかとみて、警察は近隣住民への注意を呼び掛けた。
その翌日午前10時ごろ、同市にて大きな犬に襲われているとの通報があり、警察が駆け付けたところ、民家の庭先で死亡している通報男性と、その腹部に噛みついている体高1mほどの大きな動物が発見された。
その後の研究機関の調べで、この動物の外観がハツカネズミに酷似しているとの報告がなされ、平均の数十倍にまで発達したその巨大な体格と、人間に対する異常なまでの攻撃性、そして何より捕獲に失敗したという事実によって日本中を騒がせた。
このハツカネズミ型の動物は、寿命により死亡が確認されるまでの1か月間で、警察官や保健所職員を含む8人の死者と28人の重軽傷者を出した。
世界ではじめて、モンスターが公的に報告された事件である。
そしてこの事件は、モンスターと人類の壮絶な殺し合いの、ほんの始まりでしかなかった。
「夜分にすみません。今日の分、持ってきました」
「おう、いらっしゃい。今開ける」
ここは、市街地の端っこに建つボロ倉庫。
夜の23時を過ぎているため、街はすっかり暗闇に包まれており、本来であればこの倉庫を店舗とする買取屋も営業時間をとっくに過ぎている。
表のシャッターは閉まっているため、裏口から顔を出し、店の主人にシャッターを開けてもらう。
今日は少し大きな獲物を狩ったので、表からじゃないと搬入出来ないのだ。
「全部で、八体か。相変わらず多いな。イノシシも居やがる」
「ここ最近、モンスターの数が増えてる感じしますね。デカいのも結構見かけます。中入れますか?」
「頼む。俺じゃ重機使わねぇと運べん」
この店の店主は、ゴリラのような見た目のムキムキマッチョだが、あくまでも一般人だ。
さすがに500kgを超える巨大なイノシシを持ち上げることはできないだろう。
ここに引き取りをお願いするようになって、もう半年以上になるため、ある程度勝手もわかる。
討伐したモンスターを奥の冷凍室の開いているスペースに運び入れる。
うしろで、何度見てもすげぇな、というつぶやきが聞こえるが、スルー。
冷凍室と言っても、テニスコート1面分ほどの広さがあり、結構デカい。
客からのリクエストがあれば血抜きや解体、剥ぎ取りのようなこともするらしいが、最近ではほとんどないらしい。
なんでも、最近はほとんど国や大きな企業の研究所が買い取っているらしく、彼らは出来るだけそのままの状態での買取を希望するそうだ。
なので、保管されているモンスターのほとんどは、死んだときの状態のまま、気密性の高い軟質プラスチック製の袋に入れられ、ラックに載せられている。
ちなみに、俺の討伐したモンスターもすでに同じ材質のシートで梱包してあるので、そのまま保管できる。
これらは明日の朝にでも引き取りのトラックに載せられ、またどこかの研究施設に運ばれるのだろう。
「合計15万ってとこだな。本当ならもっと出してやりてぇんだが」
「!!
最近、ずいぶん奮発してくれてますね」
モンスターが世界に現れるようになった当初、その物珍しさから、死体のみならず、モンスターの体毛や爪、牙などは、民間でも結構な頻度で取引が行われており、業者もそこそこいた。
また、一般人の中には、山中で見つけた巨大な排泄物を、モンスターのモノだとしてオークションサイトで売るような猛者もいたらしい。
しかし、倫理面や衛生面の問題、法改正などの事情により、現在ではモンスターに関連した物品は民間での売買そのものがほとんど行われておらず、国や大手企業が独占している。
そもそも、モンスターの討伐からして一般人には不可能、という事情もあり、最近では死体が出回ることが非常に稀なのだ。
そのような事情もあり、この店も決して経営が楽ではないだろう。
なのに、ここ最近はかなり高額の買取をしてくれている。
「お前さんは、討伐してすぐに袋に入れてくれてるからな。損傷も少ないし、状態は抜群に良いってことで、客からのリクエストが多いんだ。
ファンも付いてるぞ、ほれ」
「ん?なんです、これ?」
「ファンレター。欲しいモンスターのリストだってよ」
「………
結構細かい人みたいですね、俺のファンの方…」
そこには、モンスターの学名、特徴のみならず、希望するサイズ、数、狩りの時傷つけて欲しくないパーツ、保存の際の注意点など、事細かに書いてあった。
種類も思いつくままに列挙したらしく、ファンレターはちょっとした冊子になっている。
「大手製薬会社の研究所らしいんだが、金払いはいい。ただ、文句も多くてな。今後、買取はお前さんの獲物だけにするそうだ」
「それはまた、うれしいような怖いような……」
催促とかクレームとかきたら面倒だなぁ………
「それから、これは他からのリクエストも多いんだが、お前さん、昆虫類のモンスターはどうしてる?」
「ほとんどはそのまま放置ですね。駆除はしてますけど、数が多いんで。よほど大きければ持ってきてますけど」
「やっぱそうか……
悪いんだが、これからはいくらか持ってきてくれるか?最近は、どこも要求が細かくなっててな。こっちも出来るだけ要望には応えてやりたいんだ。今までは、虫は一般人の持ち込み品を卸してたんだが、状態が良いのも欲しい、って客が増えててな。お前さんのだったら文句ないだろう。負担にならない範囲でいいんだが、どうだ?」
「いいですよ。この店が潰れちゃうと、俺も困りますんで」
この店には世話になっているし、引き取り手がいなくなると俺の収入もなくなってしまう。
多少手間ではあるが、まぁ問題ないだろう。
銀行振込ではないので、その場で代金と受領書のサインをもらって、店を出る。
今日の仕事はこれで終わりだ。
急いで家に帰り、パソコンを立ち上げる。
今日は動画投稿に関して、やりたいことがあり、狩り中もずっとそわそわしていたのだ。
というのも、MeCubeにチャンネルを立ち上げて約半年。
商業目的ではないとはいえ、せっかく作った動画を見てもらえないのは、やはりさみしい。
ここ最近、視聴者、チャンネル登録者獲得に向けた改善案をずっと考えていたのだ。
そしてついに先週、次の一手を思いついた。
というか、気付いた。
多くの人気チャンネルに共通した特徴を、間抜けにも俺は見逃していたようだ。
今週に入ってからは、動画投稿を一時ストップし、ずっと改善策に取り組んできた。
それがもうすぐ完成する。
「………
……
…
できたっ!」
キャッチーなメロディ、記憶に残るロゴ、アニメーションを使い、動画の内容を一目で伝えるとともに、チャンネル登録を自然に促すほんの数秒の芸術作品。
「オープニングムービー、完成!!!」