手術後・・・
期限は過ぎていますが、せっかくなので続きを書きます。
「手術中」のランプが消える。
中から梶田が出て来る。
マスクを外し、フーッとため息。
祈るような表情で見守る患者の家族たち。
患者の妻、二人の子ども。子どもは男の子と女の子である。
理保もじーっと見守る。
「成功しました」
きょとんとしている理保。
患者の家族たちは安堵の表情。
「ありがとうございます」
患者の妻は梶田に駆け寄り、お辞儀する。
「良かった」
喜ぶ子どもたち。
無表情でロビーのソファーに腰かける梶田。
すかさず駆け寄る理保。
「どういうこと?」
「どういうこと、とは? まさか失敗して欲しかったんですか?」
「そんなわけないでしょ!」
理保は周りに気付かれないよう、小声で怒鳴る。
「僕にもよく分からない・・・」
怪訝そうな表情の理保。
「手は確かに勝手に動いたんです」
「えっ? どういうこと?」
「むしろ逆というか・・・ 失敗する方向じゃなく、成功させる方向へ・・・」
「成功させる・・・?」
「何かが導いてくれたような・・・」
「今一まだ事態のみこめてないけど・・・ここは素直に喜んだ方が良いのかな・・・」
家族たちが喜んでいる様子を見て、ふっと微笑む理保。
だが返す刀で、無表情の梶田を見て尋ねる。
「嬉しく・・・ない、の?」
「もちろん嬉しい・・・でもやっぱり腑に落ちないんです」
「・・・」
自分の実力では無いから?
理保は、そう内心では思った。
医師になったことは無いから分からない。結果、患者が救われたのなら、良いのではないか?とも思う。
医師のプライド、と言ったものもあるのであろう。
複雑な心境なのだろうと察し、かける言葉が見付からずにいると、ふと梶田の持つガラケーのストラップに目が行く。
「それは?」
何か考え事でもしているのか、ガラケーの画面を見つめながら理保の言葉に気付かないでいる梶田。
「サーフィン、好きなの?」
「えっ?」
「それ」
理保はストラップのサーフボードを指差す。
理保の要求を察した梶田は答える。
「これは兄からプレゼントされたもので、兄がサーフィン好きだったんです」
「へぇ。そうなんだ」
「事故だったんです・・・」
「えっ?」
「サーフィン中に、予想だにしなかった大波が起きて、それに巻き込まれて・・・」
「あ、ごめんなさい・・・」
申し訳なさそうに俯く理保。
「いえ、大丈夫です。井森さんもそんなシュンとする事があるんですね」
梶田の意外な言葉に少し驚く理保。
「えっ?」
すぐ気を取り直した理保は、ペシッと梶田の頭のてっぺんに手を乗っける。
「ちょっ・・・何をするんですか?」
意外な行為の反撃を食らった梶田は、思わず苦笑する。
「患者さん救ったんだから、素直に喜びましょう」
笑顔で言う理保だったが、すぐに後悔の念が襲って来た。
梶田の内心見透かしたかのように、医師の気持ちを分かりもしない、デリカシーの無い言葉だったかも?と。
「そうですね」
梶田は、理保のそんな心の声に何となく気付いてはいた。だからこそ、気を使わせぬよう、笑顔で答えた。
理保は梶田の意外な反応、初めて見せる、はっきりとした笑顔にドキッとした。
梶田の手が勝手に動いたのは、これまでこの病院で起きた怪現象とは違う種類のもの、とは何となく感じた二人ではあったが、ひとまず素直に喜ぼうという所には落ち着いた。
だが今後また心臓病の手術があった時はどうなるのか?
不明であり、不安であることには変わりなかった。
はっきりした原因が分からない以上、どうすることも出来なかった。
その夜、梶田は自宅のマンションの部屋に戻ったが、寝苦しい夜を迎えていた。
梶田はとうとう起き出してしまう。
趣味がドライブということもあり、自分の車に乗って、夜中のドライブに行くことにした。
梶田は車を走らせながら、やはり今日あったことの原因を考えていた。
すると、不可思議なことが起きる。
突然車のスピードが鈍り、重く感じ始めたのだ。
「これは・・・一体どうしたんだ」
「キャハハハ」
微かに子どもの笑い声が聞こえる。
「キャハハハ。キャハハハ」
呪いの男の子である。
笑い声は次第に大きくなる。
そして、いつもの笑い声だったのが、次第に怒気を含んだかのような、何とも言えない不気味な笑い声へと変わる。
「!」
後ろに気配を感じた梶田は後ろを振り向く。
後部座席には呪いの男の子がいて、例の手術ごっこをしていた。
大量の赤い糸が四方八方に飛び散る。
梶田の顔にも大量にかかり、大量の赤い毛糸が梶田の首に巻き付く。
ギュッと強く首を絞める。
「うわっ」
首を絞められた梶田はうめき声を発し、車の運転もままならず、ジグザグ走行をする。
「死ね・・・死ね!」
呪いの女の声である。
車のフロントガラス上方から、呪いの女の顔がニュッと出て来る。呪いの女は車の上に這いつくばり、上から車の中を覗き込んでいた。
「!」
梶田と呪いの女は、お互い上下反対の形で顔を向け合い、目を合わせる。
呪いの女は、この世のものとも思えない、恐ろしい形相。
恐ろしい目付きで梶田を見る。
「死ね!」
「うわぁぁぁあああ!」