執刀開始
まるで怪現象、霊現象を容認しているかのような病院である。
病院で起きたことの全責任を取るのは、いうまでもなく院長である。
まるで院長が全て黙認しているかのようであるが、この病院の院長──稲村一は、そういった怪現象、霊現象がこの病院で起きている報告は受けてはいる。
だが全く信じていない。
いや、認めようとしないのか・・・。
ここに勤務する医師、看護師、職員などももちろんこの怪現象、霊現象のことは知っている。それどころか実際に目撃している人もいる。
辞める人が続出することだって考えられる。この病院が存続していること自体、奇跡と言って良いであろう。
この病院は、現院長の祖父が設立した。
現院長の祖父、父共に心臓病の権威と言われるほど評判が良く、現院長もまたそうであった。
この一族は財閥でもあり、金にものを言わせ、ロケーションの良い土地を買い、立派な施設を建て、最新の設備を整えた。
腕の立つ医師も揃えた。
心臓病ならこの病院、というほど評判良かったが、ある時期を境に、心臓病の手術は失敗続きとなる。
そう、呪いの男の子が現れるようになったからである。
ここに勤務する者たちは、金のために辞めない、ということもある。
だが少し我慢すれば、通常の病院と同じだ、と開き直っているという部分がある。
呪いの男の子、呪いの女の霊が現れるのは心臓病の手術が決まっている患者の病室のみ、しかも手術前夜だけ、とほぼ決まっている。
現れる時、場所がほぼ決まっていれば、それを避ければ良い、ということである。
もちろん手術が失敗して、人一人死ぬであろうとは分かっている。
しかし幽霊が相手ではどうしようもない、と観念しているのである。
稲村はかなりやり手で、マスコミや権力の介入なども、金の力や権威を使って、何とか遣り繰りしている。
それでどうにかやっているのである。
梶田は、そんな病院だとは思いも寄らなかった。
が、梶田はいよいよ執刀しようとしていた──。
冷静さを保とうと必死だったが、この患者のまるで生気の無い顔、直前に理保から聞いた言葉が気になり、動揺していた。
(こんなことで手術は成功するのか?)
だが、やるしかないと、梶田は腹をくくった。
「それでは始めます」
オペチーム一同頷く。
「メス」
助手からメスを手渡される。
いざ、振りかざす。
「・・・・・・」
梶田は躊躇していた。
「!」
梶田は驚愕した。
振りかざした手がぶるぶる震え出す。
梶田の意思とは全く関係無しに、である。
「な、何ぃ?」
オペチーム一同、「やっぱり」と言っているかのごとく、皆俯く。
(いや、僕は絶対に成功させる!)
梶田は意を決した表情になる。
(死んだ兄さんのためにも!)
腕を振るわせながらも、梶田はメスを振り下ろす。