プロローグ
真夜中の病院──。
ほぼどの窓からも明かりは消え、静寂が漂っている・・・。かなり大きく、立派そうな病院である。
近いには海があり、聞こえるのは静かな波の音だけ・・・。
だが波の音に混じり、微かに何かの音が聞こえる。
暗い廊下。
何かの音が聞こえる。
グサッ。グサッ。
「ハハハ」
暗闇の中、何者かが座っている。
何事かを楽しんでいる。
キャッキャッと無邪気な笑い声で、何かに刃物を突き刺している。
刺しているのはまだ幼い男の子である。
人形の胸に・・・。
その人形も、やはり幼い男の子。
幼い男の子を模したかわいらしい人形である。
刺した人形の胸からは、激しく血がほとばしっている。
・・・いや、そのように見えるが、よく見るとただの赤い毛糸である。一体これだけの量の赤い毛糸が、この人形の腹の中にどうやって収まっていたのだろうか?という程のおびただしい量である。
まるで本物の人間の男の子の胸を刃物で突き刺しているかのような・・・。
とある病室の前での恐ろしい光景──。
使っている刃物は普通の工作用などのカッターだ。
病院ではあるが、手術用の刃物──メス──ではない。
よく子どもは何々ごっこと称して、本物ではない道具──本物の道具に模した物──を使って、大人のやる事の真似事をする。
ままごとがその最たるものであろうか。
その男の子は、カッターを使って、手術ごっこをしているのではないか?
もっぱらの噂である。
その男の子は2ヶ月に1回程のペースで現れ、その恐ろしい行為が行われるのは決まって真夜中である。
夜勤の看護師や医師は不気味がって、声をかけるどころか近付くことすらできない。
どこから現れるのかも分からない。素性は全くわからず、いつの間にか真夜中にいるのである。
そして朝になる前にいつの間にか消えている。
それだけならまだ良い。
実害があるのである。
その男の子がその恐ろしい行為を行った廊下近くの病室。
そこに居室している患者に手術を行うと、必ず失敗する。
すなわちその患者は必ず、死ぬ。
言い換えれば、その子どもは必ず手術を行う予定の患者が居室している病室の前に現れる。
決まって手術前夜に、である。
しかしそこの病院で行われる手術全て、というわけではない。
事実、そこの病院では手術が成功する場合もあり、逆に失敗する場合もある。
失敗した手術には、ほぼ全てその子どもが関わっている。
その男の子は一体何が目的なのか、謎である。
その男の子は、呪いの男の子と呼ばれる──。